スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

Y (作者:優)

Y 【5】

今思えば山岡の見舞いに行けよという言葉がなかったら、きっと俺たちが付き合うこともなかった。
弾き合って、弾き合って、最後には割れていたと思う。
俺と美奈の心を引き合わせてくれた山岡に今更だが深く感謝した。

「…なんだよ?人の泣き顔じろじろ見んなよ」

鼻をすすりながらそう言った山岡の目からはもう涙は出ていなかった。

「あんまり泣いてたらみんなに笑われちまうな〜。なあ、目ぇ赤いか?」

「鼻が赤い」

そうか〜恥ずかしいな、と言って山岡は鼻をこすった。
俺と目を合わせないようにどこか遠くを見ながらなぁ、と話しかけてくる。

「…なんだ?」

「あいつさ、美奈さ…最期は笑ってたのか?」

美奈の顔と言葉が頭に浮かぶ。
たぶん、山岡は美奈が最後まで笑っていたと思っているんだろう。
美奈はいつも笑顔を絶やさなかったから。俺が泣いているときは特に。
だからあの時美奈が泣くことは俺でも予想できなかった。

「いや…泣いてたかな」

自分の言葉がやけに嘘臭く聞こえる。
本当に美奈は泣いていたのか?軽く自問自答する。

「意外だな…それほど崇史と離れるのは辛かったんだな」

返事をできず再び空を見る。
そこにはちっぽけな俺をすべてを飲み込んでしまいそうな青い空が広がっていた。




―――俺はこの世に一人残されてしまった
   美奈はもうどこにもいない
   二度と会うこともない
   美奈の最期の言葉を信じて待つ気にはなれない
   期待しても辛いだけだ
   死んでしまった者には会うことはできないのだから
   今までの美奈との優しい思い出だけを胸に抱いて生きていこう
   

俺は美奈の最最期の言葉、「会いにくる」という約束をビリビリと破いて空に投げ捨てた。

優 著