スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

青 い 車 (作者:白炎)

青 い 車 【10】

何をすればいいのか、その時解りもしなかった。
ただ、手の上で絶対的な存在感を示す手帳を閉じなければならない事を悟った。

手帳を閉じる手が震えた。
彼女の鞄に、手帳を戻そうと身体を捻らせると其処には僕を見つめる彼女が居た。

僕は、何を言ったのだろうか。
あまり、覚えていない。
しかし彼女が言った、一言だけが僕の頭の中に消えない記憶として残っている。


”私を、殺して”


いくら僕でも、この問いかけにに”何で?”など答えれる筈がなかった。
彼女が年を取る事を恐れている事実を誰よりも理解していたから。
そして僕は、彼女を愛してたから。


”美しいままで死にたい、そして愛する人に殺されたい。そう望むのはおかしいかしら?”
これが彼女の最後の質問だった。

僕は”さぁ?”といつものように答えたかったのに、何も言えずに首を振った。

そして君は、”貴方を愛してよかった”そう言ったんだ。


時は経つのが早かった。いや、誕生日は僕らの目の前だった。
最後の時が来るまで、僕たちは一言も語らずに愛し合った。
互いの存在を自分の中に取り込むかのように。
何度も、何度も。


そして、時は僕の期待を裏切るように訪れた。

白炎 著