スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

めざめ (作者:あつこ)

めざめ 【39】

満月が地平のかなたに沈んでいき、サオリさんの揺れる髪からはさっきまでの夜の匂いが漂っていた
2人は手を繋ぎ、昇る朝陽をひたすら見つめていた

「翔太」
「なに?」
「会えてよかった、ありがとう。」泣くようにサオリが笑う。最後、のように翔太は感じた
「俺も、サオリさんに会えて良かった。」

陽は昇ってもまだ空気は寒いままで、お互いの手の体温だけが2人を温めた






「好き」だって、何度も言おうとした。でも言えなかった
言ったら全てが終わってしまう気がしたんだ。
怖くて言えなかった
好きだったから、壊したくなかった
臆病だって笑われても良いけれど、でも。
結局伝えられなかった。
あんなに、死にそうなぐらいに大好きだったのに。

サオリが上着のポケットから白い封筒を出してニンマリ笑った
「それ、何?」と翔太が聞くとサオリは答えずに笑った
「手紙?誰への?」
「これはおばあちゃん、これは、家族に。それとこれは―・・・」宛名の無い手紙を見つめた
「秘密」と言ってビリビリに引き裂き、ふうっと息を吹きかけ空へ飛ばした
はらはらと何かを記された紙が、空に舞い降りて行った
これで、決心はついた。一つだけ深呼吸をした

あつこ 著