スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

めざめ (作者:あつこ)

めざめ 【38】

どきっとして思わず振り返った サオリさんは悲しそうに笑った 花のように儚く
満月が泣き顔を隠すように西に行く ああ、朝が来る。
サオリさんがいってしまう、そうだ、俺も。

「良いって・・・何が」
「翔太、無理してる。分かるもん、見てるだけで。良いんだよ、
いきなりあんなこと言ったら、誰だってビックリしちゃうよね。怖くってOKしちゃうよね。
変なワガママ言って、ゴメンね。」
「そんな、サオリさん」思わず焦って俺は言おうとしたが、サオリさんが俺の話を止めた
「本当に、あたし 翔太のこと、困らせてばっかで、最低だね。
もう、いいから。翔太、朝になったら 私は行かなきゃ。でも、」
「―――でも?」恐る恐る聞き返す 子供のように
「あんたは、一緒に来ちゃダメ。翔太、あなたは生きて。」


涙が、一つコンクリートの床に零れ落ちて、染みになった


「嫌だよ、サオリさん。俺、サオリさんが死ぬなんて悲しいよ。
サオリさんだけがいっちゃうなんて嫌だよ。ねぇ、嫌だって、お願いだから、・・・ねえ!」
「翔太。」
「サオリさん、俺怖いよ、死ぬのなんて、怖いよ!」
泣きながら、空に、地面に、サオリさんに叫んだ
満月が傾いてきた
サオリさんのキレイな髪が風で靡いた

「サオリさん、・・・・・一緒に、生きようよ」
泣いたままの赤い眼で、ぐしゃぐしゃになりながらも俺は真っ直ぐにサオリさんの目を見て言った
ゆっくりと、空のずっとずっと先が、オレンジ色に染まってきた
「一緒に、生きよう?」確かめるようにして俺は言った
サオリさんは目にいっぱい涙を浮かべて、その涙をこらえるように言った

「うん、生きよう。生きよう。」
そう言ったと同時にサオリさんは、うわぁんと泣き出し、サオリさんの腰に手を回して俺はギュウッと抱きしめた
「翔太ぁ・・・ごめんね、・・・・生きよう」「うん、生きよう。一緒にさぁ、大学生になるまで頑張ろうよ」
「翔太、翔太、・・・・翔太」サオリさんの涙が俺の服に染まって来て ひたすら抱き合った

朝陽が僕らを染め上げた

あつこ 著