スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

めざめ (作者:あつこ)

めざめ 【36】

何も言えなかった 言葉は見つからなかった
こんな気持ちを言葉にするだなんて、最初から無理だった
だからお互いに何も言わずに手を握りしめながら肩と肩をくっつけながら。
目を閉じて相手のことをお互い想った


満月の夜だった
明るく光る月は綺麗で、とても綺麗で何も言えなかった
でも、隣で目を閉じて微笑む君のほうが、何倍にも何十倍にももっと、もっと美しく見えた

「俺、ずっと考えてたんだけど。」
「―――え?」
「俺がもう1年早く生まれてたら良かったのにって。」
「ハハ、なんでそんなこと思ってるの?」
「だって、俺が中学に入学した頃にはサオリさん、もう高校生じゃない。
せめて一緒に中学生活過ごしたかったなあ、って」
「なぁに、それ。」サオリさんは笑って言った
「だって、俺がサオリさんと同じ高校行ったとしても、入学した時にはもうサオリさん学校には居ないし」
「なんなら私、留年して翔太と同じクラスになるまで待とうかな」おどけて言った
「でもそれでも時間がかかるじゃない」ぷうっと頬を膨らまし、つまんないように翔太は呟いた

「でも、ね」
「?」
「大学生になれば俺、サオリさんと同じ学校に通えるんだよね?」
「そうだね、大学生かぁ。まだまだ、じゃん」

翔太の笑った顔が崩れてじっとサオリの目を真剣に見つめた
「でも俺ら、もうそんなこと絶対に来ないんだよね。」


パリン――――と何かが割れたような気がした
胸の奥のずうっと暗い深いところで水晶なのか、シャボン玉なのか分からない、何か不思議なものが
音をたててボロボロと崩れていった

「え、」
「だって、次朝が来たら、さぁ。俺もサオリさんも。」
「ん・・・・・、でも」
「俺、もっと早く生まれてこれば良かったのに、な。ごめんね」
「そんな、謝らないでよ。」「でも、」「ねぇ、謝らないで」「・・・うん」

ポケットから時計を覗いた
1時半。おそらく夜明けまであと2、3時間はかかる。と勝手に推測をしてまた、月を見上げた

あつこ 著