スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

めざめ (作者:あつこ)

めざめ 【31】

その夜中私はずっと彼の名を呼び続けた
世界でいちばん大好きな人の名前を呼ぶのはとても嬉しくって、とても切なかった。
なんでなんだろう、大好きな人なのにこんなに苦しい。
大好きな彼の名前なのに、こんなに辛い。
答えは見つからなかった、ただ星だけが綺麗で私は涙を少し流した。

「翔太ぁ・・・・」
流した涙も彼の名前もみんな夜の闇に溶けていって、消えていってしまった


「あなたをずっと、待っているから」とよく漫画や歌詞であるけれど、
私にはそんなこととても出来なかった。
私は弱いのかもしれない、汚いのかもしれない。

「翔太、翔太、翔太―――。早く来てよ、寂しいよ。いつまで待ってればいいの?」
いくら私が空に、街に、コンクリートに叫んでも、答えは無い。

ポケットを探るとカッターナイフと時計とハンカチが入ってる。
ハンカチで涙を拭いて、時計を見た。彼を待ってからもう、3時間がたとうとしている
カッターナイフは鋭く、光を放っていた。
その刃に私はまた、吸い込まれそうになったけれど気持ちを落ち着かせてまたポケットに戻した。


まだかな、遅いね。寒くなってきたな、早く来ないかな―・・・
同じことを何回呟いただろう、きっと、数え切れないぐらい呟いた
翔太、私のこと嫌いになっちゃったのかな、
いやだな、悲しいな。でも、しょうがないよね。

翔太に嫌われるのは寂しいし辛いし悲しい。
けれどきっと『しょうがない』。
私のこと、好きな人って居るのかな、
妹と母さんたちのことをふっと思い出す、
そしてゆっくり友達たちの笑い声が甦る

居るわけ無いよね、こんな私じゃ誰も好きになってくれない。きっと翔太でさえも。
溢れようとする涙を止めようとはしなかった
けれど、泣いていることを認めたくなかったから私は空を見上げて涙が零れないようにしてみた


手も足も、冷たくなっていた。
その夜は翔太を諦めて私は家へ帰った。

絶望と希望が入り混じった寂しい夜だった。

あつこ 著