スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

めざめ (作者:あつこ)

めざめ 【30】

不思議と心は落ち着いていた 私はその時何か、覚悟を決めていたのかもしれない。
扉を開けるとぴゅうっと冷たい風と優しい香りがして私は思わず目を瞑る
目を開ければ彼が居る、そんなささやかなことを私は祈りながら目を開ける。
分かっていたけれど、現実となるとやっぱり辛いものがある。
「翔太は、まだ、か。」ためいきを一つ、大きくついてみる。息が白い。冬だ、冬が来る。

私はフェンスの前までとぼとぼと歩いてそっと、座ってみる。
黒い闇の中にところどころ、灯りがともる。・・・・街が綺麗。なんて綺麗なんだろう。
深い絶望感に追われ、真っ暗にしか見えなかった風景が、今は美しく見える。
これで、あとは翔太と一緒にこのまま。
街が美しく見えるまま、世界が美しく見えるまま、死ねれば私はもう言い残すことは無い。


左手が寂しい、人の体温を求めている。
くちびる、あの唇をもう一度。肩のぬくもりも、冷たい頬も、みんな。私のものにするの。

翔太に会いたいよ、なんでこんなに遅いのかな。
何か用事があるのかな、病気にでもなっちゃったのかな、私のこと、忘れちゃったのかなぁ?
もう、私になんて会いたくないなんて言われたら私、どうしたらいいんだろう。
そのまま、1人で死んでいくのかな。
それはやっぱり、寂しいなぁ。
どうしよう、私が生きるのも死ぬのも、翔太が全て握っている。あの人が居なきゃ、私はダメかも。
苦しいよ、切ないよ、悲しいよ、辛いよ、寂しいよ、翔太。
助けてよ、温めてよ、笑ってよ、・・・早く来て、私待ちきれないの。

凍えて赤くなる手先に私は息を吹きかける、あたたかい。生きているのだ、私は。
「まだかなぁ、翔太」確かめるように、祈るように、私はわざとらしく言ってみる

1人は寂しいし、何より寒い。
翔太が、恋しい。

空を見上げると、街と同じように所々に星が光る
なんて綺麗な空、なんて綺麗な星、なんて澄んだ空気。
なんて、なんて、なんて、なんて――――・・・・。そうか、私はずっとここに居たのだ。
星達はずっとここに居たんだね、私を待っていてくれたの?
ごめんね、今さら気づいて。でも私決めたんだ、翔太と約束したの。
一緒に死のう、って。彼となら私何も怖くないから。
せめてあなたたちは見守っていて
その光で、全てを包んで。
ねぇ、どうしたら私もそんなふうに輝くことが出来るの?教えてよ。
ねぇ、ねぇ、ねぇ・・・答えて。教えて。

翔太、私を置いて行かないで。1人は嫌なの。

あつこ 著