スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

めざめ (作者:あつこ)

めざめ【27】

風が冷たくなっていた
2人の体にはだいぶその寒さが染みこんでいて、お互い体温を求めていた
触れるのは怖い、壊れてしまいそうだから。けど―――触れたい

脆くって壊れそうなそんな感情を殺して、2人はずっと月について話していた
ありったけの知識を相手に伝えて、相槌をありったけ打って、
凍え死にそうな頬を歪めて必死に笑いあった

「家に帰りたい?」
多分2人にそう聞いてもお互い「帰りたく無い」と言っただろう
理由は本当に簡単だった、 「相手がまだそこにいるから」。

14歳と、11歳。
まだ本当の愛なんて知らないくせにって大人は言うだろう、けれど―――・・・
2人とも相手がそこに居るから、自分もここに居る、そんな些細な想いが確実に2人を寄せ合った

寄せ合った気持ちはお互い秘めたまま、日にちを超えようとしていた

何がこの2人をこんなに強くさせたのだろう
それは幼いながらの「愛」かもしれないし、小さな下心からかもしれないし。

2人は肩を並べて静かに喋った
「翔太・・・風邪ひくよ?帰らなくっていいの?」
「もうちょっと、もうちょっとだけ。・・・一緒に居させて」
「私は大丈夫だけど、翔太そんな薄着で。大丈夫?私嫌だよ、翔太が病気するなんて」
「ん、・・・大丈夫だよ。ねぇ、サオリさん。俺、・・・・」

カクンっと翔太は首を揺らした
「え?」とサオリが顔を覗き込むと小さな寝息をたてていた
力尽きていたのだろう、夕方からろくなものを食べずサオリをずうっと待っていて、

サオリはぼんやりとそれを察知し、優しく年上らしく声をかけた
「ほら、寝ないの。風邪ひくから、おうち帰ろう?明日また一緒に話そう?ね?大丈夫だよ」

「うん・・・そうだね、明日また。ここで一緒に・・・」
翔太はゆっくりと立ち上がって座っているサオリに手を差し伸べた「立って」と。
手を差し伸べる、月が逆光で翔太の顔がよく見えない。
すとん、と立ち上がり2人はオレンジ色の花の香りと満ちかけの月だけを残して家へ帰った

ふと、後ろが気になった。けれど気づく間に扉は閉まってしまった
「・・・・・なんでも、ないか」
「え?なんか言った?」翔太がとぼけたような声で聞き返す
「ん、なんでも無い。ほら、早く帰ろ。」サオリはそう言って、階段を降りていった。

あつこ 著