スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

めざめ (作者:あつこ)

めざめ【1】

少年はランドセルを開いて、中から計算ドリルを出した
そして一問ずつ解いて行った

台所にはさっき食べたカレーとサラダの皿がキレイに洗われ、磨かれていた

そのマンションの一室には少年以外誰も居なかった

あるのは寂しさと異様な孤独感だけ。
世界は自分1人しか居ないんじゃないか、そう思った途端
隣の部屋から赤ん坊の泣き声がしたので馬鹿馬鹿しくなって少し笑った

計算ドリルはすぐに終わって、テレビを付ける
お笑い芸人がなんか、笑いながらトークをしていた


寂しい、お母さんはまだなのかな。

いや、今帰ってきたとしても母は何も言わずに布団に入るだろう
それはきっと今以上に寂しい。


ベランダの外は真っ暗で所々に家々の灯りがあった
あの中の誰が今僕と同じような寂しさを持ってるだろう?

ベランダに出ると、懐かしい香りがした。
この香り、知ってる。
12階から見下ろすと、下にはオレンジ色の小さな花をつけた木が立っていた

テレビの雑音が聞こえる。
外の風がいつのまにかこんなに冷たくなっている。

お母さんは、まだなのかな?

何を考えても、どう思っていてもそればっかり浮かんでくる
ベランダから出ると、少年は上着を取り出し、外に出てみた

こんな時間に外に出るなんて、夏祭りの時か、母さんと小さい時に外食に行ったきりだ。

靴を履きなおし、エレベーターを待つ

7階、8階、9階、10階、11階、最後に、12階。
扉が開く、とりあえず、と僕は最上階に行くことにする。
眺めが良さそうだし。なんて適当な理由で。

エレベーターを降りると最上階。
突き当りには屋上までの階段、階段には鍵がついてるから普通は入れない。

でも俺知ってるんだ、ここの鍵、もうボロくってちょっとドアノブを回せばすぐに開けられること。
ガチャガチャ、とドアノブを数回まわして、少年は扉を開けた

あつこ 著