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気づいたことは 〜迷子の兵隊〜  [作者:たぬき]

母国の国旗を胸にかかげ、一人、歩いていた。


ここは何処なんだ?仲間は――


答える者はいない。たった一人なのだから。
灼熱の太陽、水筒はもうすぐ空になる。意識はもうろうとしていた。


暑い  暑い  敵は何処だ
今何時だ
分からない 分からない


草やら花やら枝やら、足元のものは気にせずに踏みつけて歩いた。
と言うよりは、八つ当たりで踏みつけていた。
食料もほとんどない。あるのは大量の銃弾。
背中に背負うのは、それらが入ったリュックサック。そしてショットガン。
それだけだはない。
重いが、捨てるわけにはいかない。
捨ててしまったら、自分自身を捨ててしまうような気がしていた。


おなかが空いた 食料を食べたのは何時間前だ
足が重い 休めない
どうして誰もいない 分からない


上官から命令が下った。
迷うことなく命令を受けた。迷う必要なんてなかった。
しかし、今は迷っている。
ああ、帰ったら憎いあいつらに何を言おう。
それも帰れたらの話だ。憎しみだけの妄想が頭を駆け巡っていた。
まず、この戦いに勝つことを考えろ。


足元に何かが光った
どうでもいい  つらい
腕が痛い 助けてほしい
自分は何処を目指している
分からない


夜になっても気が抜けない。
いつ銃弾が飛んでくるか、いつ獣が襲ってくるか分からないからだ。
もともと協調性はないが、やはり人がいないとつらい。
ここに来る前は、愛想笑いをするのがつらかった。
しかし、愛想笑いさえ出来ない状況よりは。
自嘲気味に一人で微笑んだ。


眠い 眠れない
疲れた 誰か来てくれ
寂しい 恐ろしい
自分が何を求めているか 分からない
どうしたらいい


敵を一人でも多く殺すため、この地に来た。もし今目の前に弱った敵がいたら、
冷徹に自分は相手を殺して見せよう。
非情になれと訓練で言われてきた。我が国のためなら鬼でも悪魔でも成り下がろう。
あらゆる感情を家に置いて来た。
必要ないのだから、持って来ても邪魔になるだけだ。
しかし、限界は知らず知らずのうちについて来たらしい。


どこまで続く
どうして続く
逃げ道がほしい 帰り道がほしい
頭が重い 痛い


だが、認めるわけにはいかない。
逃げ道なんぞ、自分の頭の中だけで良い。考え事をすると、初心に帰れる。
国に残る、愛すべき人たちのために、前に進むしかないのだ。
自分のすべては、まさにそれだ。
だから、この道とも言えない道を、 進 む し  か―――


もう動けない
目の前には青い空
白い雲が穏やかに流れている
目的も終着点もなく静かに変形しながら ゆっくりと
手を伸ばしたくても動けない 足も 首も

おなかが空いた
誰かに会いたい 話がしたい
憎しみの炎が消えてゆく
残ったのは悲しみか
気づくのが遅かったようだ


自分が、ただの人間であることを
『迷子の兵隊』だったことを


だれもいないこの場所で

誰もが分かっていることに気づいた


***************
あとがき
スノーマンの二番煎じ…(苦笑)
とっさに思いついたので、書いて見ました。

この兵隊が生きてるか死んでるか、ご想像におまかせします(オイ)
自分でも、さっぱり分かりません(´д`;)