スピッツ歌詞研究室 オリジナル小説
スピッツ歌詞TOPオリジナル小説僕らのプレイリストTOP>僕らのプレイリスト_06

僕らのプレイリスト [作者:9700]

■第1話−6

家を出て、ずいぶんと歩いた。通学路と真逆の道を進む。少し急な坂を登ると、そこには小さな公園があった。遊具は、ブランコと砂場だけだが、公園の真ん中には、大きな桜があった。街灯の明りで、ほんのりと桜色が浮かび上がっている。
少し見とれてしまった。

「夜桜ですか?」
急に後ろから声をかけられた。振り返ると、ロングの髪をおろした、俺と同じくらいの女の子が立っていた。
「いや、別に」
俺が愛想なく答えると、彼女はすいませんと頭をさげ、駅への道をきいてきた。
ちょっと前に引っ越してきたばかりだから俺もわからない、と答える。そうですか、とまた頭をさげ、彼女は闇へと消えた。

自分でもいい性格とは思えない。すこしため息をつき、戻ろうとしたとき、初めて地面が桜色だということに気がついた。桜の花びらだ。今は見えないが、きっとこの公園は、桜の木で囲まれているのだろう。
しゃがみながら、花びらをゆっくりと両手にすくう。それを見ていると、急にさっきの女の子が気にかかってきた。夜の11時に駅へ向かう女の子なんているのだろうか? 家出? にしても、駅の場所くらいわかるだろう。
疑問疑問と思っていると、とたんに突風がふいて、両手の花びらが宙に舞った。
そのなかでひとつ見つけた。少し背伸びしてつかむ。明らかに感触が花びらではない。
握った手をゆっくりと開いた。

季節は春。紅葉した葉を、春疾風が教えてくれた。
「・・・楓?」




↓目次

【第1話】