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僕らのプレイリスト [作者:9700]

■第1話−5

いつもの夜は短かった。しかし、今夜は長く長く、終わりはなさそうだった。
春というには暑い。ベッドから降りながらそう思った。いつのまにか寝ていたらしい。
パジャマにも着替えておらず、電気もつけっぱなしだ。
時刻は11時をまわっており、父親はまだ帰ってきていない。いや、帰ってこないのかもしれない。
窓の向こうには明りは見えず、それでも俺は一枚はおって外に出た。やはり、少し蒸していていた。街の中心地へと近づくと、すぐに明りが増え始めた。
地方都市の奥にあり、交通には困らない小さなベッドタウン。それが六ヶ月前に引っ越してきて、明日には別の街へ出ていく、今の住所だ。
俺は地元、つまり、生まれ故郷を知らない。俺は、物心ついたときから引っ越しの連続だった。今日も引っ越しの準備を終えたところだ。

世界は汚い。いろんな街に住んでいた俺だからいえる。どの街もどの街も、ほこりまみれで、黒ずんでいた。そして、また汚い世界をちょっと移動するのだ。

足は、明るい場所では早く、暗い場所では遅くなった。
夜の11時に未成年が野外を歩き回っていても、誰もとがめない。というか、誰とも会わなかった。
引っ越してきて、この街をどのくらい歩いたのだろう。いくら歩いても、俺の足は満足しなかった。慣れないのだ。生暖かい風をうけながら、ただただ歩いている。べつに目的はない。最後に一度だけ、この街を歩きたかっただけだった。



↓目次

【第1話】