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僕らのプレイリスト [作者:9700]

■第1話−3

どのくらい泳いだのだろうか。
終わりがなさそうなこの世界だが、流れていく時間がとても怖かった。
楽しい時間は、あっという間だから。
それでも、急がず焦らず、僕は泳ぐ。ずっとずっと、泳ぎ続ける。

太陽が沈まないこの世界では、いまいち時間の感覚が生まれない。
きっと、もう一週間は泳いでいるだろう。
それにしても、太陽は沈まない。
そんなことを考えていたときのことだった。

僕は、一番美しいこの世界の、一番美しいものを見た。
静かに、ゆっくりと向こう側から泳いでくる。波もたてずに、そっとそっと。
軽く揺れる髪。きれいな目、鼻。海中の光のカーテンとは違う、ぼやけた光。
人魚とよぶのだろう。
それこそあっという間にすれ違い、通り過ぎていった。
見とれていた。振り返ってまで見とれていた。その時間すら短かった。
新鮮で優しい気持ちになった。
存在する全てのなかで一番美しい。そんな人を見たんだから。

世界は美しい。美しすぎる。なにもかもが綺麗でしかたがない。
そして、もう一度、彼女を見たい。
このまま。このままどうか、終わりがこないで。時が止まってほしい。
そのためなら、なんだってしてやる。


「本当に? 本当にそう思う?」
僕の横を通りすぎていく魚がつぶやく。
僕はうなずく。
「ああ、本当さ」
見えなくなった魚に代わって、今度は目の前の光のカーテンがささやく。
「なら、私を、光のカーテンをくぐってみたら?」
そういえば、まだ一度もくぐったことはなかった。
「いいだろう。そしたら、永遠と僕はこの世界を泳ぎ続けられるんだね。美しいこの世界を」
僕はゆっくりと、光のカーテンをくぐった。



↓目次

【第1話】