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月に帰る  [作者:猫]

■ 7

「月!!」
周りの人の視線が俺に集中する。
それでも構わなかった。
長い髪で白いワンピースに黒いカーディガンを着た後姿を捜して
俺はいつも来ている商店街を走って辺りを見回し続けた

商店街を過ぎてしまった。
屋根がなくなって雨粒が服を少しずつ濡らしていく、
商店街にいないなら月は全身すっかり濡れているはずだ。

早く見つけないと。
焦る気持ちに任せて走り続けた。

「月!!」
もう一度呼んでみた。すると、雨音とかすかな声が聞えた。
「翔??」
振り向くと細い裏道にしゃがみこんだ月が居た。
ずっと心配してたんだ。
「馬鹿!!何やってんだよ。」
心配してたのに、口から出る言葉は止まらなかった
「わけわかんねえ・・・。何がしたいんだよ」
「・・・ごめん」
「どうしていつもお前は俺を悩ませるんだよ・・・。」
「ごめんね」
俺は泣いていた。悲しいわけでもなく、彼女に対して怒っているわけでもなく、
そんな感情よりも先に涙が出てくるのだ。
涙と雨が混ざってもう自分でも何がなんだかわからなかった。


「帰ろう。」
傘を差し出して言ったが、彼女は首を横にふった。
「何考えてんだ。こんなとこにいたら風邪引くって」
「帰りたいけど・・・、今は帰れないの。」
「どうした?なんかあった?」
今度は彼女が泣き始めた。俺はどうしたら良いかもわからずに、
自分もしゃがみこんで月の細い身体を抱き寄せた。
雨音で世界の音がぼやけて、俺たちをつつみこんだ。
雨は霧雨になって、月が湿った道路を照らしていく
「翔・・・」
「ん?」
「よく聞いて。お願い。」
「・・・うん」
涙声の彼女の言葉は弱さの中に強さを持っていた。

「私、帰らなくちゃ」



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