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月に帰る  [作者:猫]

■ 4

言い負かされた。
「ねぇ私パンがいいなー」
「じゃあ近所のパン屋でいいですか」
「うんー・・・なんで敬語なのよ」
疲れる。どうしたんだ俺は、姉で女の人には慣れてるはずなのに
月はいちいち心配そうに俺の顔を見る。
目が合わせられないのは、俺が緊張しているからなのか。
「うん、わかったから。ちょっと静かにしててくれないかな」
彼女はこくっと頷いて口をつぐんだ。
こう言うしかなかったのだ、色々考えるためにも。

すると景色が歪んだ。月の顔も同時にぼやける。
めまいがして、バランスを保てなかった。
とっさに月の腕を掴んでしまった、細い腕に力が入るのがわかった。
「ど、どうしたの?」
「大丈夫だから、もうちょっと、このままにしてて。ごめん。」
「ダメだよ。家に帰ろう?」
何も答えられなかった。ただ恐怖で頭がいっぱいになっていて
月の声さえもぼやけていった。
「震えてるじゃない・・・大丈夫じゃないよ。
  翔、帰ろう?ね?」
情けなかったけれど、月の言う通りだと思って
だけど声が出なくて・・・
ふらつく体で立ち、家の方向へ向きを変えた。

月はずっとまた心配そうにしていて、何か聞きたそうな顔をしていた。
でも静かに、僕のことを支えていた。


家に帰って、月は俺を畳に横にして水をくれた。
「・・・ごめん」
「ううん。それより今は落ち着いて」
さっきまで子供のように騒がしかった月が
なんだかとても落ち着いて見えた。
「月、」
くるっと顔をこちらに向けておおきな目でこっちを見て
俺の横に座った。
「腕、痛くなかった?」
「大丈夫だよ。」
という月の腕にちょっと触れてみた
腕はビクッとして、しばらく震えていた。
「っ!!」
「痛かったんだ、ごめん。ちょっと見せて」
腕は少し赤くなっていた。
俺の手形がついたようで、罪悪感を感じた。
「すぐに治るよ。だから、私は大丈夫。人の心配してる場合じゃないでしょ」
そう言って、自分の水を取りに行った



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