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月に帰る  [作者:猫]

■ 2

病院を出たときにはもう夕方になっていた。
少し見上げると夕焼けがきれいで。
というより、今自分のこの目で見えていることが嬉しくて、
同時に見えなくなるかもしれないんだな、と思うと悲しすぎて
虚しくて、それでも夕焼けはきれいに映った

昔から風景を見ることはとても好きだった。
夕焼けと月は特別心が落ち着いて、好きだった。

そう思うと耐えられなくなって、呆然と立ったまま
ずっと夕焼けを眺めた。


ふと、周りを見回した。
もう空は紺色に染まりきれいな満月が浮かんでいる。
何してんだ、俺は。と小さくつぶやいて家路へとついた。

「今日は昼飯を食べてない。夕飯何にしようかなあ・・・」
なんて考えて歩いていると
道の真ん中で月を眺めている女の人がいた
俺あんなことしてたんだ。相当怪しかったな。
だけど、その女の人にも何か辛いことでもあったんだろうかと思うと
怪しいとも言い切れなくて、背中も何故か悲しげに見えた。

すると女の人は目の前で急に地面に膝をつき、
崩れるように道に倒れこんだ。
「え?」
しばらく見ていたが動く気配はない。
「大丈夫ですか!!今救急車呼びますから」
ホントに病院によく世話になるなぁ
急に携帯をだそうとした手が強く掴まれたが、その力はすぐに弱くなった
「やめて・・・大丈夫だから。」
「全然ダメじゃないっすか!!」
「お願い、救急車は呼ばないで、お願い」
「・・・どうして。」
「・・・あ、親に心配かけたくなくて。お金もかかっちゃうし・・・」
あぁ、すごく分かる。けど・・・
「じゃあ・・・どうすれば」
と言いかけると女の人を見ると気を失っていた。



自分の家に女の子入れるのだって初めてなのに、
見ず知らずの女の人を家に入れるだなんて予想もつかないことがあるもんだ

女の人はきれいなウェーブのかかった長い髪で、色白な人だ。
長いまつげの目をしっかり閉じている

今日、ついに夕飯も食えなかったなと悔しがる自分と
女の人の長いまつげをみて可愛いなーと思っている自分がいて
どちらの考えにも嫌気がさす。

本当に大丈夫なのかと眠っている女の人を見ていると
自分もうとうとし始めて、まぶたを閉じた

やわらかく月明かりが窓からさしている夜中のことだった。



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