スピッツ歌詞研究室 オリジナル小説
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Sky Star Spitz  [作者:ピアノ]

■3

収録だから、やり直せばいいじゃないか。と思った人も少なくないだろう。
この番組は、アーティストの最新の様子を録る番組だ。だから、二度録りはしない。
どんなに楽器が、壊れたって。

廊下で、ずっと泣いていた。スタッフももう余りいない。
しゃがみこんで、ひとり、ずっと泣いていた。

「あれ。」
目が覚めたとき、不思議なことになっていた。
スタジオの廊下じゃなくて、自分の家になっていた。昨日持って行った鞄もあるし、自分も、ちゃんとした格好だ。だれが・・・ あれ?ギターがない。
「え?どこ?ギター!私のギター!」
隅から隅まで探した。ギターがありそうなところは、全部。
私は、不安になった。今まであったものが、とつぜんなくなって。ギターは、ただ一人の、友達みたいなものだったから。
その時、家のチャイムが鳴った。

きんこーん

「こんにちはー。ギター直しときましたー。」
「えー!!?」
ダッシュで玄関に向かった。
そこに立っていたのは・・・・・・

がちゃ

「・・!草野さん!」
「こんちはー。みんないるよー。」
「こっこんにちは!」
「ずいぶん使ってたでしょ?ぼろぼろだったから、全部替えといたよ。」
ギターの弦を一本変えるのも、時間がかかるのに、全部変えてくれたなんて思うと、涙があふれた。こんなに、暖かい気持になったのは、10年ぶりだ。
「あーっ!草野が泣かしたー!」
「泣かしてないよ!俺が悪いみたいに言うな!」
私は、泣きながら笑った。

私の親は、10歳の時に父、母、ともに一緒に事故で亡くなった。
私は、一人っ子だった。親戚は、「可哀想な」と思っていても、引き取ってくれる人はいなかった。お母さんのギターを弾いて、金を稼ぎ、盗られながらも、がんばっていた。
その時だった。一人の常連さんが、
「オーディション受けない?」
「え?」――――――――
その人は、芸能プロダクションの人だった。みごと、受かって、今に至る。

「あれ?笑ってるよ今度は」
「おかしーなー。草野が泣かしたんじゃなかったっけ?」
「泣かしてないよ!ごめんね。はい、ギター」
ギターを受け取ろうとしたとき、急に目の前が、真っ暗になった。



↓目次

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