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日なたの窓に憧れて  [作者:金木犀]

■1

「なんで父さんは母さんと結婚したんだ?」
母さんの墓前で父さんに訊いてみた。親父は線香に火を点けて、半分俺に渡してきた。
「…そんなコト訊いてどうするんだ。」
「少し気になっただけさ。ただの話だよ。子供なら一度は親に聞くものじゃないかな。」
墓前にしゃがみこみ、線香を供え母に拝んだ。年のせいか父さんはしゃがむのが辛そうだ。
「その飄々とした感じ、変わらないな。」
「まぁね。父さんこそ…暫く見ないうちに白髪が増えた。髪もだいぶ薄くなった。」
父さんは静かに立ち上がって、車へ向かった。
「行くぞ、孝子郎。」
母さんの墓に供えた酒饅頭を口の中に放り込み、僕も父さんの車に乗った。
「窓開けていい?」父さんは黙って助手席の窓を開けた。
金木犀の甘い香りがする。母さんが死んだ日も金木犀が綺麗に咲いていた。

「お前とこうして食事をとるのも何年ぶりか。」父さんは煙草を取り出したが、しばらくして吸わずに胸ポケットに戻した。
「たまに食べる蕎麦も良いもんだよ。蕎麦は嫌いじゃない。」
「さっきの話だが…。」
言い掛けた時、注文した蕎麦が運ばれてきた。鴨南蛮と盛り蕎麦二枚。蕎麦屋に来ると、いつも同じメニューだ。
「父さんと母さんが出会った時の話で良いんだな?」
「そそ。話す気になったの?」
「ああ。いいだろう。母さんが死んでだいぶ経つしな。」
「それに僕も大人になった。」僕は最後の一口をすすり、二枚目の蕎麦に手を伸ばした。
「…それが何の関係があるんだ?」
「正確には『僕が親元を離れて、独りで暮らしているコト』が重要なんだ。」
父さんの箸が止まった。「何が言いたい?お前はどこまで知っているんだ。」

「『真実』が知りたい。僕の中での『疑惑』を『確信』に変えたいんだ。」…コップの中の氷が解けて、カランと鳴った。



↓目次

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