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名前をつけてやる [作者:優]

■ 最終話

「あれ、予想以上に狭いね。片山、平気?」

「平気。…つーか、何で声小さくしてんの?」

小町はニッと笑って何となく、と答えた。俺もそのちょっとした遊びに付き合うことにする。
俺たちはそれから声をひそめ、会えなかった一週間分の話をした。

――ずっと話していたので口が疲れてしまった。
ふう、と息を吐いて小町の方を…向いたがすぐ顔を背けた。おまりに勢いよく顔を動かしたので、小町が心配そうに覗き込んできた。

「うわっ!こ、こっち来んな!てめぇ、なんでジャージじゃねぇんだよ!服、薄いぞ!」

「へっ…?あ、えぇ!?ちょっと、変な気起こさないでよ!バカ!」

「起こさねーよチビ!」

…と言ってはみたものの、そんな自信がない。俯いてしまった小町を見ながら、膨らんだシャツのボタンを引きちぎる隙を探している自分がいる。
――もう、ダメだ。

「…小町。ちょっと、いい?」

「…うん?」

「お前さ、この間俺に名前つけただろ?仮の。覚えてる?」

小町は目を丸くして南の月のこと?と聞いてくる。俺はコクリと頷いた後ゆっくりと外に出た。小町も顔だけマンモストンネルの外に出す。

「あの名前さ、正式なものにしてくれる?」

「え…」

「…あの名前でさ、辛いときとかに俺のこと呼んでほしい」

ストレートに「好きだ」と言う勇気は無いのでとても遠回しな告白になっているが、小町には伝わっているようだ。
見開いた大きな目にうっすらと涙がにじんでいる。

「…呼んでも、いい、の?」

小町の声はかすれていた。

「おう。…だから、明日の試合の応援の後にここに来いよ。それまでに俺がお前の名前を考えとく。本気で」

「名前、くれるの?」

「ああ。小町っていう名前もいいけど、それよりも…いや、誰よりも立派で、誰よりもバカみたいなのつけるからな。楽しみにしとけよな」

小町は溢れる涙を抑えながら小さく頷いている。俺はしゃがんで小町の頭をポンポンと軽く叩いた。
そして2人だけにしか聞こえないような声で繰り返す。

「名前を、つけてやる」

↓目次

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