名前をつけてやる [作者:優]
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最終話
「あれ、予想以上に狭いね。片山、平気?」
「平気。…つーか、何で声小さくしてんの?」
小町はニッと笑って何となく、と答えた。俺もそのちょっとした遊びに付き合うことにする。
俺たちはそれから声をひそめ、会えなかった一週間分の話をした。
――ずっと話していたので口が疲れてしまった。
ふう、と息を吐いて小町の方を…向いたがすぐ顔を背けた。おまりに勢いよく顔を動かしたので、小町が心配そうに覗き込んできた。
「うわっ!こ、こっち来んな!てめぇ、なんでジャージじゃねぇんだよ!服、薄いぞ!」
「へっ…?あ、えぇ!?ちょっと、変な気起こさないでよ!バカ!」
「起こさねーよチビ!」
…と言ってはみたものの、そんな自信がない。俯いてしまった小町を見ながら、膨らんだシャツのボタンを引きちぎる隙を探している自分がいる。
――もう、ダメだ。
「…小町。ちょっと、いい?」
「…うん?」
「お前さ、この間俺に名前つけただろ?仮の。覚えてる?」
小町は目を丸くして南の月のこと?と聞いてくる。俺はコクリと頷いた後ゆっくりと外に出た。小町も顔だけマンモストンネルの外に出す。
「あの名前さ、正式なものにしてくれる?」
「え…」
「…あの名前でさ、辛いときとかに俺のこと呼んでほしい」
ストレートに「好きだ」と言う勇気は無いのでとても遠回しな告白になっているが、小町には伝わっているようだ。
見開いた大きな目にうっすらと涙がにじんでいる。
「…呼んでも、いい、の?」
小町の声はかすれていた。
「おう。…だから、明日の試合の応援の後にここに来いよ。それまでに俺がお前の名前を考えとく。本気で」
「名前、くれるの?」
「ああ。小町っていう名前もいいけど、それよりも…いや、誰よりも立派で、誰よりもバカみたいなのつけるからな。楽しみにしとけよな」
小町は溢れる涙を抑えながら小さく頷いている。俺はしゃがんで小町の頭をポンポンと軽く叩いた。
そして2人だけにしか聞こえないような声で繰り返す。
「名前を、つけてやる」
↓目次
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