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名前をつけてやる [作者:優]

■ 第3話

放課後、田口にコーラを渡してから広場へ行くとすでに小町が来ていた。隣へ行き一緒にストレッチをする。

「ねぇ、今日のお昼のことなんだけどさ、なんで名前で呼ばれたくないの?
確か、なつきって“夏の輝き”って書くんだよね?」

「よく知ってるな。でもこの名前って女っぽくね?」

「男でもなつきはいっぱいいるよ。それに片山は明るいから、なんか合ってると思う」

「俺の姉ちゃんは“夏美”で、俺は“夏輝”…絶対こういう姉妹いるぜ。だから何となく嫌」

「ふーん…。
…実はね、あたしもちょっとだけ嫌なの。自分の名前。
小町って名前っておしとやかなイメージない?なのに、私はバスケ部で1番の怪力だし、髪も短くて男っぽいし…
だから小町って名前にちょっとだけ抵抗あるなぁ。
…名前にコンプレックス持ってるとこは似てるね、あたしたち」

小町はふふ、と笑うとシュート練習を始めた。俺も小町に気づかれないよう、小さく笑った。
似たもの同士が出会い、くだらないダジャレを言って笑い合えている。そう考えると嬉しくなった。


しばらくの間身体と口を動かしながら練習を楽しんでいたが、ふと小町が動きを止めた。小町の目が俺を捕らえる。

「夏輝はさ、彼女とかつくらないの?…好きな人とかいないの?」

あまりに唐突な質問にむせてしまった。小町が俺のことを名前で呼ぶのも、恋愛話をするのも、今のが初めてだ。なんで?と聞き返してみる。

「彼女が出来たらね、新しい名前をつけてもらいなよ。彼女がつけて、彼女しか呼ばない、名前」

ぽかんと口を開ける俺を無視して小町は続けた。

「あのね、あたしね、未来の彼氏につけてほしいの。新しい名前。2人だけの、特別な名前」

そう言って空を見た小町の目は輝いていた。
夢見る少女そのものだ。目の前の小柄な少女が、普段以上に可愛く見える。
その少女の目が再び俺を見つめる。

「つけてみようか」

「…は?」

「名前」

「…お前が、俺に?何で」

「あたしの予行演習よ。もし片山があたしの彼氏だったら…うーん、そうだな、“夏の輝き”を“南の月”にしようかな。それで“なつき”って読むの」

「まて。読み方はそのままかよ。俺の悩みを解消してねえし、意味もわかんねぇ」

「南は暖かいでしょ?月は夜のものでしょ?今、片山とバスケしてるこの夜は暖かいってことだよ」

すぐに理解出来なかったが、俺とバスケをする時間は暖かい…つまり、楽しいということだろうか?…そうだと嬉しい。
今なら、ただの仲良しと言われても悲しくない…

「まぁ、もしもの話だけど。あぁ、未来の彼氏様はどんな名前をくれるかなぁ…。
片山も良い名前もらえるといいね。仲良しの義理で応援してあげる」

…前言撤回。好きなヤツに自分の恋路を応援されるとなんか悲しい。しかもまた片山と呼ばれている。
さっき夏輝と呼んだのは気まぐれだったのか…。
何かへこむ。

↓目次

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