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あじさい通り [作者:ぽわん]

■11

陽菜が病室に運ばれたのは、それから30分もしなかった。
どうやら点滴をされただけらしい。
看護師さんに病室を案内されてついていくと、117号室の小さな個室だった。

相原 陽菜

と書かれたプレートが目の奥ににずっしりと沈んでいった。
花屋のお姉さんにもらった花束をぎゅっと握る。
ゆっくりとドアを開ける。何かが壊れてしまわぬように、そっと・・・・・・。


小さな窓のすぐそばのベッドで、陽菜は横になっていた。

「泉くん・・・」

にっこりと陽菜が笑顔を見せた。重苦しかったものが、少し軽くなった。顔色も
ずっといい・・・よかったいつもの陽菜じゃないか。

「思ったより元気そうだな。」

思わず顔がほころぶのが自分でもわかった。

「ご迷惑をおかけしました・・・それ、お花ですか?」

陽菜の細い人差し指が、思いきり花を握りしめていた僕の左手を指す。

「うん、そうだよ。救急車呼んでくれた、あの花屋さんのお姉さんがくれたんだ。
陽菜の知り合いみたいだったけど?」

「そうですよ。初めの自己紹介で言ったの覚えてますか?私の好きなもの・・・。」

「いっぱいあったから覚えてないよ。」

・・・・・・本当は全部覚えてるけど。

「忘れちゃったんですか?お花屋さん、好きなんです。体の調子がいい時は、いつも
お花屋さんに行って、あのお姉さんとお話してましたから・・・・・・。」

陽菜の顔が曇る。


体の調子が・・・いい時・・・・?


いやな予感がする・・・・・。


「体の調子が・・・いい時って・・・・・。陽菜、体弱いの?ってか、今すごい元気じゃん。
田橋の言ってたことなんか、ただのウソだよね・・・・・・?」



一瞬部屋の中から音が消えた。陽菜が下をうつむいた。

願いを込めるように、僕はありったけの力で花を握った。


「田橋君の言ってたことは本当です・・・・・。

私の担当のお医者さん・・・田橋君のお父様に、言われました。

私の命は、あと半年ももたないだろうって・・・・・・。」


左手がゆるんで、握っていた花が床にハラハラと落ちていった。



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