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あじさい通り [作者:ぽわん]

■6

僕と陽菜は、いつもの帰り道と少し外れた小さな公園のベンチに腰かけた。

「悪いけど、話してるとき急につっこんだりしないでね。」

「わかりました、黙って聞きますよ、こういう時くらい。」

僕は小さく笑って、話し始めた。


「あれはね、えーっと、中学1年の時だったんだ。今もチビだけど、その頃はもっと
チビだった。黒板消すのにも、イス使ってたくらいね。だけど僕と同じくらいチビが
いたんだ。そいつは佐藤浩司って名前で、チビ同士気が合ってたんだ。いつも僕はそいつ
と一緒にいた。周りからチビコンビ、なんて言われたりしてさ。だけどどんなにバカに
されたって、平気だったんだ。

だけど中2の時、あの田橋が同じクラスになって、僕はいじめられるようになった。僕と田橋は
2組、浩司は3組だった。クラスが違くなっても、あいつは僕が田橋に絡まれていたら、助けに
きてくれたんだ・・・。二人して殴られたりした。だけどあいつはいつも笑って、俺はお前の
味方だからなって言ったんだ・・・・・・。

僕はあいつを信じてた。あいつがいれば、どんなに蹴られても、殴られても、大丈夫だって
思った。

だけどある日・・・・・・。ある日・・・・あの時・・・・・・。」

頭に小さな痛みを感じる。

「泉君・・・・・。あの、無理して話さないで・・・・」

「大丈夫・・・・・・。ある時から、あいつは田橋の味方になってたんだ。田橋と一緒に、僕を
殴ったりはしてこなかったけど・・・。僕がどんなに殴られても、あいつはただただ見ていた。
それから・・・・・・・・もう二度と人を信じないって、そう思ったんだ。」


深呼吸する。頭と胸の中が、苦しい。




「泉君・・・・・・。」

「ん・・・・・・・。」

「私、泉君のことが好きです・・・・・・。」

「えっ?」

「好きです。本当に・・・・好きです・・・。」

「ちょっと待ってよ、そんな今・・・」


・・・・・・陽菜の言ってることは嘘じゃない。

陽菜の目を見て そう思った。

信じていいのかな。

陽菜なら、大丈夫かな。

もう一人にならずにすむのかな。


いろんな思いが交錯する。


「・・・・・・信じられませんか?」

陽菜が切なそうな瞳で、僕を見る。





「信じるよ」そう言うつもりだった。糸をほどいて、扉を開けられる気がした。



だけどそれは一瞬で消え去った。 冷たい風が吹いたときだった。


浩司が一瞬で、僕らの前を自転車で通り過ぎて行った。冷たい目で、僕を見て、また目をそむけ、
僕の前を通り過ぎた。


「泉君・・・・・・・・?」

「・・・・・・・・・信じない。」

「えっ・・・?」

「信じられないよ、やっぱり。」

「泉君・・・。」



ほどきかえた糸はまた元通り結びなおされた。

「だからもう、僕の前から消えてよ・・・・・・。」

僕は重い扉を、閉めてしまった。



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