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あじさい通り [作者:ぽわん]

■5

そんな雨の日の次の日も、次の日も、次の次の日も、やはり陽菜は僕についてきた。
笑顔で。初めて会ったときは気にならなかったけど、陽菜は歩くのがとても遅かった。

授業の合間の小さな休み時間、陽菜は必ず僕のクラスにやってきて、いちいち授業の話
を詳しく教えてくれた。
昼休み、なぜだか保健室で、三原先生と3人で弁当を食べた。
帰宅中、よくこんなに口がまわるな・・・というほど、陽菜はよく喋っていた。その上
歩くのが遅いから、陽菜と会う前の、学校から家につく時間と、陽菜に会ってからのその
時間は、30分ほどの違いがあった。
もちろん、陽菜と会った後が30分ほど長くなったのだが・・・・・・。

だけど、いつも大男に食われる前に・・・とものすごい速さで家まで帰っていたから、
こんなに長く、空の下に、そしてこんなゆったりした時間の中にいるのは、
心地よかった。

陽菜と僕は、たくさんの話をした。まぁ一方的に陽菜が喋るのだけど。

昨日見たテレビの話から、学校の話、なぜだか政治のことまで、幅広いテーマで、喋っていた。
僕が暗くて、後ろ向きで、ネガティブな考えを述べれば、逆に陽菜は、明るくて、前向きで、
ポジティブな考えを述べた。

「そんなに人生うまくいくわけないだろ。」

僕はそう言いながら、陽菜の明るい未来の話を聞いて、あたたかいものを感じていた。

「泉君、笑うようになりましたね。私、嬉しいです。」

いつもの帰宅中、陽菜が笑顔で僕に言った。

「そうかな?」

「そうです。素敵。とっても素敵です。」

本当にうれしそうな笑顔が、心のどこかをくすぐった。

「泉君・・・・・・。」

「なに?」

「どうして・・・・・泉君は人のことを、信じられなくなったんですか・・・?」

「えっ・・・。」

「言いましたよね、初めて会った日。人なんか信じないって。」

「うん・・・言ったよね。」

「教えてください。お願いします。」

そう言うと彼女は僕の目をまっすぐ見た。
真剣な目。僕のことを、本当に見てくれている。
ほどきかけてる糸を完全にほどくのは、
今しかないかもしれないと思った。


「いいよ、教えてあげる。」


僕の中の重い扉を少し押してみた。



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