あじさい通り [作者:ぽわん]
■4
「お友達になりたいです!!」
その発言から、陽菜は僕のところへ毎日やってきた。「あのさ、あんまり来ないでくれる?」
「ちょっとしつこいよ」・・・・・・僕がどんなにトゲのある口調で答えても、陽菜はにっこり
笑ってついてきた。今日で3日目だ。
そういえば、陽菜がついてくるようになってから、大男に殴られることがなくなっている。
なぜ、大男が陽菜に弱いのかは未だに謎だ。
とりあえず、今日も仲良く、雨の中、二人で帰宅だ・・・。
「あのさ、どうして毎日毎日、僕のところにくるんだよ。」
「泉君、いまさらですが、自己紹介をしませんか?」
こいつは、人の話を聞いちゃいない。
「・・・・・・別にいいけど。」
「相原陽菜、A型です。はい、次は泉君です。」
「坂下泉、O型。」
「好きなもの・・・お母さんの作った卵焼き、お花屋さん、お友達とのおしゃべり、
お散歩、あったかくて優しいそよ風・・・晴れた空・・・!」
「・・・・・多すぎ。」
「いいじゃないですか。好きなものがいっぱいあるって素敵です。」
「あー素敵ね、素敵だね。」
「・・・泉くんの好きなものは・・・?」
「ない」
「もう・・・暗いですね。僕の心はこの薄暗い雨の日みたいなんだ・・・とか言うんでしょう?」
「こういう雨の日、好きだよ。」
「私は晴れた日が好きですけど・・・・・・泉君?」
こんな薄暗い雨の日は僕を隠してくれる。
あの日のことも、僕の気持ちも、みんな・・・。
全部水しぶきがごちゃまぜにしてくれる。
すべて・・・・・・・。
「泉君?泉君、聞いてますか?」
雨音の中に、陽菜の声だけが混ざっていった。
歩道の脇に咲いている紫陽花が、雨粒を受けて揺れていた。
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