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あじさい通り [作者:ぽわん]

■2

そのまま僕は彼女の手にひかれて保健室まで歩いて行った。長い髪の毛が揺れてほのかな優しい匂いを漂わせる。
ひりひり痛む頬が、ほんの少しだけ和らいだ気がした。
保健室に入ると消毒液の臭いが鼻についた。窓の近くのソファに腰掛ける。

「あら、保健室の先生いませんね・・・。勝手にいじっちゃっていいかしら。」

そう言うと彼女はまるで自分の住み慣れた部屋にいるかのように、冷蔵庫から氷をとりだし、
机についてある3段目の引き出しに手をのばして袋と輪ゴムをとり、
水道の蛇口をひねって、袋の中に氷と水を入れ、輪ゴムでしばり、それを僕の頬にもってきた。

「っ・・・・・!!」

ひんやりと冷たい袋が、頬を刺激する。だけどその冷たさが心地よくなるのは早かった。

「本当に痛そう・・・。大丈夫ですか?」

心配そうに彼女が僕の目を見つめる。

「平気・・・。だけど何で僕の名前、知ってるの?さっき呼んでくれたよね。
僕の名前・・・。僕は君のこと、みたことないんだけど。」

そう聞くと、彼女は「ふふっ」と笑った。僕の周りでこんな上品な笑い方をする人はいない。

「私はこの学校に来ている生徒の名前、全員知っています。」

「えっ、うそでしょ?」

「うそじゃありませんよ。それから、私のことは、陽菜って呼んでください。素敵な名前でしょう?」

「・・・・・・普通自分の名前を素敵なんて言わないよね。」

「そうですか?泉君の名前も素敵ですよ。」

変わった人だな・・・。そう思いながらも僕は続けて質問した。

「陽菜は何学年?」

「・・・・・・泉君と同じ、中学3年生です。」

「えっ、じゃあ何組?」

「・・・3組です。」

「えっ、僕の隣のクラス?・・・・本当に今まで陽菜のこと、みたことないよ?」

「だけど3組です。」

「でも今まで・・・・」

「それでも3組です。」

彼女はそうほほ笑んだ・・・・・・面倒くさくなってきて僕はそれ以上聞かなかった。



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