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愛のことば2  [作者:ユウコ]

■ 2

「海は綺麗だね」

「あぁ」

潮風の匂いが懐かしかった。幼い頃は君とよく浜辺を転げまわって遊んでいた。
砂だらけで帰ってきていつも両親に怒られていたっけ・・・・・。

「私達の未来はこの海のように広かったはずだよね」

「・・・・・・」

そうだ。5年前の春、君は大学生になるはずだった。
桜並木を歩いて大学の門をくぐるはずだったのだ。
それが戦争という出来事のお陰で粉々に砕かれてしまった。
僕らの未来は自分勝手な政治家達の手で搾り取られて閉ざされてしまった。

「ねぇ。抜け出さない?」

「どこから?」

「ここから。もっともっと明るいところへ行くの。
美味しいものが沢山食べれて、着る服にも困らなくって、お風呂も毎日入れて・・・・・・。」

君はふっ、と言葉を切った。

「あなたの病気が治せるところにね・・・・・・」

「そうか」

僕は君の肩を抱き締めた。

「僕は病気のおかげで君と一緒にいれるんだよ」

君は僕の手にそっと触れた。青白く光り、血管が浮いている僕らの握り合う手は戦争の物悲しさを語っている。

「それもそうね・・・・・・」

君はそう言うと、目を閉じた。

「こうすると気分が落ち着かない?」

「どうすると?」

「もう、いじわるなんだから」

「別にいじわるしてないけど」

「目を閉じて波の音を聞いてよ」

目を閉じたまま頬を膨らませる君。僕はそんな君が可愛くて指で頬をつついてから、目を閉じた。
波のさざなみは平和だと思わせてくれる魔術がある。
僕も目を閉じてゆっくり揺れる不安定で細い棒のように立っていた。
しばらくして、君は僕を見上げ家に戻ろうと言った。



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