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サンシャイン [作者:檜山 キョウ]

■ 第2話

翌朝、またコン、と小さな音がして窓を開けると、ヒカリは、

「ナオちゃん、準備できたあ?」

薄いピンク色のワンピースをヒラヒラさせながら、ヒカリは窓枠をまたいだ。
おいおいスカートで飛び移るなよ、見えるぞと言ったら、案の定、うるさいと一蹴された。

「なに、ナオちゃんまだ着替えてもいないの」

「だってお前、時間の指定しなかったじゃんかよ」

「でも、もう十時なんだから。フツウ、この時間には起きてるもんでしょうが」

お前と違って俺は自堕落なんだよとつぶやいてみるが、ヒカリの耳には届いていないらしい。
とりあえずヒカリを部屋から追い出して、僕はパジャマのボタンに手をかけた。
ヒカリが悩んでいること。昨日ヒカリが帰ったあといろいろと考えてはみたが、僕にはやっぱり見当も付かない。
それに今日だって、ヒカリはいたって元気である。
おかしいと思ったのは、昨日のあの一瞬だけだ。ヒカリが悲しそうに微笑んだ、あの一瞬だけ。

「あらヒカリちゃん、来てたの」

「おばさん、おはようございます」

ドアの向こうで、母さんの声がした。僕の部屋が騒がしいから見に来たのだろう。
母さんが余計なことを言わないようにと耳をそばだてていたけれど、二人の声は急に静かになって、まったく聞こえなくなった。
それからしばらくして、母さんが階段を降りる音が聞こえた。いつもより足取りが重いようだった。
Gパンのチャックを上げたそのとき、ドアが勢いよく開いた。

「ナオちゃん、着替えた?」

「おまっ、ノックぐらいしろよな」

「別に今更気にすることでもないじゃない。それより、早く行こう。待ちくたびれた」

ヒカリは小さい子供のように軽く飛び跳ねた。少し長い髪が、ヒカリの動きに合わせて肩を叩いた。

「歯だけ磨いてくる。先に玄関で待ってて」

「しょうがないなあ、早く来いよお」

ヒカリは一段ぬかしで階段を駆け下りた。ヒカリもあの頃とまったく変わっていない。
無邪気で、子供っぽくて。学校で見かけるときは、すごく大人っぽく見えるのに。
僕だけが知っている、ありのままのヒカリ。なんだか少し誇らしく感じる。
二階の小さい洗面所でサーッと歯を磨き乱暴に口をぬぐった。
それからヒカリの真似をして、一段ぬかしで階段を降りた。
なんでもないことなのに、なんだか小さかった頃に戻ったような、そんな気分になった。

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