ハッピーデイ [作者:larkheart"95]
■ 第2話「晴れの日はプカプカプー」
ジェットは自転車をこいでとある病院に向かっていた。
病院の手前はとても長く、終わらないようにも見えた。手を広げてみる。なぜだか飛べそうな気がしてくる。いつも彼はそんな気がしていた。
でも飛べることはない。翼があっても雲さえつかめない。そんなことくらいわかっていた。
「ケイトさん、お見舞いの客がいらっしゃってます。」
看護婦はそのケイトという少女にそう声かけた。
「はい、通してください。」
部屋にはジェットが入ってきた。特に二人の間に関係があるわけではない。
ジェットはスラム出身の怪盗であり、ケイトは国内2の資産を持つコンツェルンのトップの令嬢であった。
「プカさん、またいらしたの?いつもありがとう。」
ジェットの本名はプカという名前だった。これはジェットとしての彼を知る者はほとんど知らない名前である。
ジェット=プカであることを知っている人はスラムの友人の数名だけだ。
もちろん、ケイトはプカという人間しか知らない。彼女は視力を失っていたし、ただプカと名乗る青年と恋に落ちていた。
「君と為ならどんなときだってここに来るさ。…たとえ警察に追われていたとしてもね。」
「やだぁ、プカさんみたいないい人が警察に追われたりなんてしないでしょう。」
彼は微笑んだ。大丈夫だ。誰も俺が誰なんて見破れないだろう。そうジェットは確信した。
「絶対、手術費を用意してくるからな。」
「うん、お願いね。」
ケイトの目に巻いた包帯から涙がこぼれていた。
彼の親はコンツェルンのトップではあるが「娘の目よりも会社が優先」といった人たちで、お金をケイトの目に使おうとはしなかった。
そして、娘が視力を失って入院しているということは全く無公表だったが、裏からの情報でジェットはキャッチしていた。
そして彼女を「盗もう」と決めた。
「じゃあ、また来るからね」
ジェットはそういって退室した。そしてまたしばらく自転車をこいだ。
病院よりさらに下ると踏切がありその上に病院が建っているように見えた。
夕方が近づいており空の色も変わっていった。
彼は次のゲームの準備をしようとしたが、スラムの友人が話しかけてきた。
「大変だ、プカ!」
「どうした?」
友人は息を切らせていた。
「少年探偵のスパイダーが動き始めたぞ!タイガー刑事とともに!」
スパイダー少年とタイガー刑事のコンビは世界的に有名で、今まで検挙率が100%に近く、その多くは兇悪犯罪のものであった。
「そうか、ようやく骨のある奴らが俺を追っかけてきたんだな。」
彼は一つだけ不安があった。ケイトに被害が及ぶことだ。
しかし、彼は次の一回で手術費が貯まることをわかっていたから、何も怖れようとは思わなかった。
「ラストゲーム、やってみようか」
彼は目を閉じて考えながらいった
↓目次
【第1話】→【第2話】→【第3話】→【最終章(前編)】→【最終章(後編)】
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