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ただ春を待つ  [作者:きらり☆]

■5

ようやく辿り着いた達成感を噛み締めながら自転車を押してアトリエへ近づいた。
窓から中を覗いてみるとそこには人影が二つあった。
遥貴と彼の叔父さんだった。彼等は何かを真剣にしていた。
何をしているのか必死に見ようと背伸びをした。
その時だった。遥貴がこちらを振り返った。
パニックに陥った私はその場から動けなかった。
遥貴はそんな私を知るよしもなく私がいる窓へと近付いて来た。
「何しているの?」遥貴が私に問い掛けた。冷静な言い方だったが目は微かに笑っている様だった。
叔父さんも私がいる事に気付いたらしく「あがりなさい。」と言った。
私は言われるままにアトリエの中に足を踏み入れた。

遥貴の叔父さんは遥貴と、目や笑った時の子供っぽい顔が似ていた。
二人とも何かの作業を一旦止めて椅子とコーヒーが入ったマグカップを三つずつ持ってこっちにきた。
「何をしていたんですか?」しんとした空間の中に私の声が響く。
「絵を描いていたのだよ。」叔父さんがゆっくりと応えた。
「君こそ何してたの?」今度は遥貴が喋った。私はなんて答えれば良いのか解らなかった。
「絵を見たかったの。」ふとそんな言葉が零れた。



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