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ただ春を待つ  [作者:きらり☆]

■1

何の予定もない日曜日の朝。いつもより少し遅い起床。

私は今何の為に生き、何に向かって歩いているのか―
最近生きている意味、自分の存在価値をよく考える。
無意味 ふと我に返るとそんな言葉さえ脳裏に浮かぶのだ。

「真理子ちゃん、起きてるの?ご飯よ。」母がリビングから私を呼ぶ。
放っておけばその内二階の私の部屋まで来て仕舞うだろう。面倒だと思いつつもつい起きて仕舞う。
そんな自分も嫌だった。何をするにしても一人で出来ているつもりだった。しかし、それは大間違いだった。
どんなに子供じゃないと言い切っても結局は子供なのだ。

下に下りた時には母はかんかんだった。「休みの日なのにごろごろして!」聞き慣れた怒り文句だ。
なにしろもう14年間も聞いているのだから。母の攻撃を交わしながら顔を洗う為、洗面所へ向かった。
そこには兄が居た。「オス。」 「お早う。」と短く挨拶をし入れ替わる。最近兄とはまるで他人の様だ。
お互い顔を合わせも白々しい。兄弟とはそんなものだと私も割り切り、対して気にしていなかった。

朝食を済ませると私は出掛ける事にし、空白の日曜日を埋める事にした。
宛てもないのに自転車で一本の道を何処までもいく。春に近付いているのだろう。顔をすり抜けるいい匂いの風が心地よい。
どの位走ったのだろうか。見慣れない大きく、まるでへんてこな生き物のような建物に出会した。
しばらくそこに立ち止まり、正面からその生き物を観ていた。
『カゲロウ館』
大きくもなく小さくもない看板がやや傾いて掛かっている。どうやらそれがそいつの名前らしい。
其れにしてもこれは何なのだろうか。
一見アパートの様だが人が住んで居る様には見えない。
もしかしてただの小屋なのかもしれない。もし、其れが私の考えを覆す様な途轍もなくつまらないものだったらがっかりして仕舞う。
その為必死に自分に言い聞かせているのだ。幼い頃だったら魔女の館とか秘密の館と言われたら信じていただろう。
しかしそんなものは現実に存在しない。私は知っているのだ。
そう思いつつもこのへんてこりんな建物はその考えを吹き飛ばすかの様に私に希望を与えてくる。

突然何か冷たいものが肌に触れ、同時に私の頭の中にある全ての事を一瞬にして消し去った。
―雨だ。
急いで帰らなければ。自転車のペダルを夢中でこいだ。
しかしあの建物は暫く私の脳裏に張り付いて離れなかった。



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