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花泥棒  [作者:優]

■12

太陽が山の向こうに沈んでも秀は起きなかった。玲奈のひざの上でスースーと寝息を立てている。
玲奈は手に持っていた花を頭上にかざした。
秀に摘まれてからかなりの時間が経っていたのでよれよれになっている。

「元気は無いけど…綺麗ね。いつも必死で探してるのね。…私のために…」

そう言って玲奈は秀の頭をそっとなでる。

玲奈は秀の玲奈に対する気持ちに気付いていた。
秀が花を持ってき始めたのは玲奈に会う口実だったということもわかっている。
いつの間にかその口実は恒例のものとなり、玲奈はそれを楽しみにするようになっていた。
秀が玲奈へ気持ちを告げない限り、玲奈は干渉するつもりは無かった。干渉すれば、何かが崩れる気がした。

玲奈はこれまでに秀から受け取った花を押し花にしてアルバムに保存している。
そのアルバムもついこの間3冊目に入った。
このアルバムを見るたび玲奈は落ち着く。自分と秀はまだつながっているのだと。
玲奈はそのつながりを壊したくなかった。

「私は、あの花が大切よ…。あなたのこと…好きよ」

ひざで眠る秀に話しかける。当然返事は返ってこないが、それでも続ける。

「一度ね、店長に聞かれたの。『秀のことどう思ってる?』って。
そのときは、何とも思わなかったわ。恋愛対象になるなんてないと思ってた。
…でもね、今同じ質問されたらそうは答えない。だって、こんな感情初めてだもの。
今日もね、隣町にいるときも早く帰りたくて…」

玲奈はふうっと息を吐き、秀の髪をときながら問いかけた。

「これって、きっと恋なのよね?」



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