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花泥棒  [作者:優]

■11

「気分悪いの?あそこのベンチに座りましょう」

玲奈はフラついた足取りの秀を支えながらベンチまで歩いた。
ベンチの上に秀を寝かせ、玲奈は秀の頭側に腰をかけた。

「…そんなにバテてるなんて珍しいわね。もしかして今日ずっと走ってたの?」

「はい…なかなか玲奈さん見つからなくて…」

「今日はね、隣町に行っててさっき帰ってきたとこなの」

走り損か、と思い秀はため息をついた。
玲奈は黄色の花を匂っていたが少し申し訳無さそうな顔をした。

「ごめんね、言ってなかったわ。
…あ、お詫びに膝枕してあげるわ!少しは寝やすいでしょう?」

秀は断ろうとしたがあっという間に頭を持ち上げられ、そのまま柔らかいものの上にそっと置かれた。
さっきまで下がゴツゴツしていたのでこの柔らかさはとても心地よかった。
秀は大した抵抗もせずゆっくり目を閉じる。

「…ふふ、本当に疲れてるのね。いつものあなたなら叫びながら逃げてるわ。
花泥棒さんは大変ね…」

「…泥棒って…」

「あなたのことよ。私が命名したの。毎日花をちぎってるでしょう?」

「ちぎっ…せめて摘んでるって言ってください。それに…泥棒ってイメージ悪いですね…」

「だって、あなたの持ってくる花はいつもキレイなものばかりだわ。
泥棒はキレイなものを見つけるのが得意そうじゃない」

「それなら怪盗のほうが良いです…」

「あなたはそんな紳士な雰囲気じゃないもの。可愛い泥棒さんがいいわ。キレイなものをどんどん盗むの」

「僕は…そんな大したやつじゃないですよ…」

自分はとても気の弱い泥棒だ。その辺の花は摘めても、本当に欲しいものには手が出せない。
今自分の目の前にいる、美しく、一番欲しいと願っている孤独な花がどうしても摘めない。
店長には「まだ枯れていない」などと偉そうなことを言ったが、内心枯れることが怖くてたまらない。
上手く盗める自信が無い。

「本当に…臆病な―…」

そこで秀の言葉は途切れた。代わりにスースーという寝息が聞こえる。
玲奈はふっと柔らかい表情で微笑んだ後、ゆっくりと空を見上げた。
太陽はかなり西に傾いていた。



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