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花泥棒  [作者:優]

■10

谷さんの家の花壇には店長が言った通り、たくさんの花が咲いていた。
去年店長が見た花壇の美しさはまだ健在のようだ。
秀はその中でも一際目をひく黄色の花を摘みすぐ走り出した。

早く玲奈に摘んだ花を渡さなければ、花に元気が無くなってしまう。
秀はありったけの力を出して走ったが、なかなか玲奈は見つからなかった。
フラワーショップにも一度戻ってみたがやはりそこにも居なかった。
駅や玲奈の好きな店にも行ったが玲奈はいない。
いつの間にか花を摘んでから何時間も経っていた。
黄色い花に当初の元気は無くなっている。

秀もフラフラする身体でどうにか4、5分吹樹原まで走ったが体力は限界に近付いていた。
足を引きずりながら奥の草むらへ入っていく。
ある程度歩いた後、秀は急に倒れ込んでしまった。
なんとか身体を起こそうとするが上手く動かせない。思った以上に疲れているようだ。

「くそっ」と舌打ちをし、花を持っていた手の力を抜く。
花はポトリと地面に落ちた。

(どうせここは人目につきにくいし…。少し休もう…)

そのまま秀はゆっくり目を閉じた。



―――秀は夢を見た。
一面の花畑の中に玲奈が立ち、こちらに向かって手を振っている。
その表情は喜びで一杯に見えた。
秀の顔も自然と笑顔になっている。

(あぁ、やっと見つけたんですね。やっと愛するができたんですね―…)

そう言って駆け寄ろうとした瞬間、頬にバシンと衝撃が走った。

(!?)

驚いて目を見開くと、目の前には草、草、草。
どこだここは、とパニックになっていると頭上から声がした。

「ねぇ、起きて。ねぇ、風邪引くわ…あっ起きたの?」

「…!れ、玲奈さん!あ、うわっすみません!」

「謝ることないけど…何してたの?」

「何でしたっけ…。…あ、ただの仮眠です」

「ここで?危ないじゃない!
…はぁ、たたき起こして正解だったわ」

玲奈は呆れた顔で秀に手を差しのべた。
どうやら夢の途中にあった頬の衝撃は玲奈が秀を起こすためにひっぱたいた時のものらしい。
ジンジンと痛む頬をさすりながら、秀は玲奈の手をとって起き上がった。

玲奈のもうひとつの手には秀が摘んだ花が握られていた。



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