花泥棒 [作者:優]
■6
玲奈と秀が出会ったのは今から3ヶ月ほど前だ。
秀が吹樹に引っ越してきたころでもあり、吹樹にもまだ冷たい風が吹いていた。
初めて会った時の玲奈は上にはモコモコとした服だったが、下はヒラヒラとした薄いスカート1枚だった。
さらに傘も差さずに雨に濡れていたのでとても寒そうだった。
しかし、その雨に濡れた黒く長いストレートの髪、すらっと伸びた細い手足に色白の肌には、人をひきつける魅力があった。
(やっぱり、キレイだな)
秀は夢の中の玲奈を見て思った。
いつまでも変わらない美しさ。これに今まで何人の男がとりこになったのだろう。
自分もその中の一人だと考えるとなんだか可笑しかった。
しばらくすると、夢に動きがあった。玲奈が口を開いたのだ。
「最近、ここに来たの?」
「へっ?あ、う、そ…ですね、あの」
夢の中の秀は驚きまともな返事を返せない。玲奈はふふっと笑って言葉を続けた。
「そう。私は玲奈、よろしくね」
「あ、海藤…秀です。お願いします…。あの…傘は」
「吹樹のくまさんって知ってる?」
秀の質問は無視された。
さらに不思議な質問をされた秀が答えに詰まっていると、玲奈が近づいてきた。
近づいてくる玲奈を見ると、目が赤くなっていた。ついさっきまで泣いていたように真っ赤だ。
秀がその赤い目を見て戸惑っている間に、玲奈が秀の傘をひょいと取り上げた。雨が容赦なく秀の体に降り注ぐ。
秀はうわっ冷たっと言いながら頭を手で庇った。
玲奈は全く悪びれた様子も見せずに手招きをしている。
「早く。くまさんのとこに行きましょう」
そんな約束してないけど、と思いつつも秀はその手に引っ張られるように玲奈に近づいた。当然、傘の中には入れてもらえない。
(…この後、風邪引いたんだよな)
秀は夢の中の自分を見ながら人事のように思った。
ふっと視界が暗くなり、目の前にいた2人が見えなくなる。
次に目を開けたとき、秀は現実世界へと戻っていた。
部屋は蒸し暑く、背中にはうっすら汗をかいている。
さっきまで降っていた雨はやみ、空には月が雲に隠れるようにして浮かんでいた。
「…行かないと」
秀は無意識のうちにそう呟いていた。
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