ホタル [作者:三日月 遥]
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第9章
ーーーーまぁ、どうせわかってるけど。
助からないんでしょ?助けてくれないんでしょう?
もともとお医者さんなんて信頼してない。
信頼なんか出来るわけない。目の前で何人の人がいなくなったと思う?
何人の人が悲しんだと思う?−ーーー
そんな思いをぶつけてやりたかった。
そしてまた、薄暗い灯りの灯った部屋に入った。
「…黒井 光さん…。あなた、灯さんとはいつからの仲ですか?」
知ってる。僕は知っている。
助からないときの誘導尋問だ。
はい。はい。と答えているうちにいつの間にか死ぬことになっている。
こういう手口が一番人を騙しやすいんだろう。
二年前に読んだ教科書にもこんな話がでてきたことがある。
「オツベルと象」。翼が熱弁してたヤツだ。
「オツベルは俺に似てる」「象がバカだ」とかなんとか。
その話を読んだときにもやっぱり病院のことを考えた。
「よく似てる」って。
「小三からです。それが何か?検査と関係あるんですか?」
どうせいつもの誘導尋問だろうってはじめは思った。
だから、ぶっきらぼうな返事をしてた。
翼や茜さんには頭を叩かれたけど。
痛いなんて感じなかった。むしろどうぞ?ッて感じだった。
けれど、次第に違うッて事に気がついた。
いつもならこんなに震えていない。ずっと下なんか向いていない。
もっと自信に満ちあふれた顔をしている。
そう。まるで「白い巨塔」の」教授のように…。
しばらくの沈黙の後、ようやく看護婦が口を開けた。
「…灯さんと光くんは骨髄の型が一致しました。…。」
…そうか。…そういうことか
やっとそれで、下を向いた理由も、誘導尋問の理由もわかった。
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