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ホタル  [作者:三日月 遥]

■ 第8章

その朝、僕は布団の中に潜っていた。
足音がする。母さんだ。母さんのスリッパにはぼこぼこがついていて歩くとプラスチックのすれる音がする。
これが兄だったら裸足かもしくはスリッパを滑らせてくる。
だからどっちかはすぐにわかる。
ドアを開ける音がした。仮病は僕の得意分野だ。

「光?学校休んでいいの?かぜ薬おいといたから…。母さん、職場行ってくるね…。」

…早くでろ!外で翼が待ってるんだよ!と思いつつも罪悪感をうすうす感じていた。

仮病を使ったのは久しぶりだ。意外と楽しいものだ。
やっとドアを閉める音がした。階段を降りる音が聞こえたらミッション完了。
ようやく外に出られる。早速窓を開け、翼に合図をおくる。
“今から行く”昔から二人で使っている合図だ。

靴を履き、鍵をかけ、外の空気を吸う。
心の準備はたいがいこれぐらいで済む。自転車のペダルを足で蹴って進む。

僕らはいつも五分くらい遅れる。
茜さんはやっぱりしかめっ面だった。「こんな大事なときに限って遅れるやつらだ。」とため息をつかれてしまった。

病室への道は前よりも薄暗く感じた。確かに一つ電球がとれていたのもある。
でも、灯ちゃんが死ぬ、という闇が光を吸い込んでいたからだ。
でも帰ってきた答えは意外なものだった。



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