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ホタル  [作者:三日月 遥]

■ 第5章

しかし、灯ちゃんだけは納得のいかない様子だった。

「茜…まさかそのためだけにここに来たの?」

灯は口をとがらせ、目を細めて茜をにらんでいた。
茜さんは知らんぷりをしてケータイを出していじくっていた。
そんな茜さんを見ていると翼によく似ている…とということに気がついた。
考えてみると確かに翼がここについてきた理由も茜さんと一緒だと思う。
きっと灯ちゃんも彼女に振り回されることが多いんだろうなあ…僕は迷わずそういう答えを出した。
だって実際僕が苦労しているからだいたいおなじなんだろうな、ということはわかる。
でも彼女も僕も決して彼らを嫌いなわけじゃないんだ。
向こうもきっとそうだろう。

そんなとき、茜がふと口を開いた。

「そだ、光、あんたに返すものがある。」

と言ってポケットを探りだした。
ポケットから出てきたものは小さな空きビンだった。

「はぁぁ?ビン〜?」

翼があくびをしながらそのビンをのぞいていた。
僕はそのビンの事を忘れてはいなかった。それは同じく小三の時のことだ。
僕はある女の子…つまり灯ちゃんとベッドが隣だった。
僕は長いこと入院していたから退屈しのぎとして母さんがホタルを川から捕まえて持ってきてくれた。
なぜなら僕はホタルが大好きだったからだ。
母さんは気を利かせて灯ちゃんのぶんも持ってきてくれた。
彼女はすごく喜んだ。
それから僕らは話をするようになった。そんな僕らのキューピッドのかわりのビンだ。

「ずっと灯から預かりっぱなしだったからさぁ…返すよ。これ。」

そして茜さんから小さなビンを受け取った。



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