一杯のコーヒー [作者:新藤 アキ]
■第1章−10
シオンと暮らして、長い月日がたった。
この日が来るまで、ずっとずっと幸せだったけれど。
もう、幸せなんてやってこなかった。
その日の、朝。
「え・・・・・・嘘だろ?これ・・・・・・は・・・・・・」
シオンが、絶望へと落ちた。
私達の目に見えていた幸せの木は、朽ちた。
その手紙は、白い封筒の中に。
封筒の口は、この国の国旗のシールで止められていた。
それを、開けた中には。
赤い手紙。
戦争を告げる赤い手紙。
年齢など関係なく、戦争に駆り出される、赤い手紙。
「いやだ・・・・・・いやだっ!!」
シオンは感情に任せ、その手紙を地面へと投げた。
「シオン、受け止めなくちゃ・・・・・・これで、生き残ればいいでしょう?」
「ユーリ・・・・・・そんな事、でき・・・・・・るのか?」
「・・・・・・あたしだって、受け止めたくないよ!」
私は、その場で泣き崩れた。
悲しみのあまり。
泣き崩れたままユーリが見上げると、そこに、黒い衣装の女が立っていた。
太陽の光を、隠すかのように。
「お受け取りください・・・・・・受け取らなければ、きっと、後悔します・・・・・・大切な人を残したいのなら」
女は、悲しい笑みを浮かべながら、二つのスーツケースを出した。
ずっと女は悲しい笑み以外の表情を見せず、泣き崩れるユーリから目を逸らしていた。
「これは・・・・・・戦争に行くための物・・・・・・?」
「大切な人を守るためなら、命も出せるでしょう?」
しかたなく、シオンはそれを受け取った。
スーツケースは軽いのに、心はズシリと重いまま。
さっき、女の放った言葉が重かった。
「これで、あなた達は正式に戦争へと出ることが認められました」
認めたくない。
それだけが、ないているユーリに考えられること。
「明日からだ、きっと。この町は、戦場となる」
「生き残れるよね・・・・・・?」
あまえるように、シオンに寄りかかっていたユーリは静かに言った。
「そう、信じよう。戦争が終わっても、まだ二人でいられるように」
そうつぶやいて、家に入った。
心を落ち着かせるために、シオンはコーヒーを飲んだ。
でも、二人の心は落ち着かず。
ユーリはもう泣き止んだが、いまだに闇を彷徨っているかのようにベッドに身をゆだねている。
『こんなもの、なければいいのに』
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