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一杯のコーヒー  [作者:新藤 アキ]

■第1章−8

暖炉の火がゆらめいている。
ボクはユーリが淹れたコーヒーを飲みながら部屋を見渡していた。

ちょうど子猫がミルクを飲み終わったとき、ユーリが口を開いた。

「あぁ、この子ワカナさんのところの子だ。シオンが出かけてる間にワカナさん、探しに来たんだよ」

「行ってくればいいよ。ボクはココで待ってるから」

「シオン、ありがと。すぐ戻ってくると思うから」

ユーリは小さなダンボールの底にタオルを敷いて、そこに子猫を入れた。
上着を着た後、テーブルの上にあったバスケットの中のクッキーを子猫にかじらせておいた。
そして、ボクに手をふると傘を差し、子猫の入ったダンボールを抱えてワカナさんのところへ走っていった。
どんどんオレンジ色の傘が遠ざかっていった。

テーブルの上にあったバスケットの中のクッキーを一つ手にとってみた。
まだそれは少し暖かく、ほんのり甘い匂いがボクの鼻をくすぐった。
一口かじると、バターのほのかな味と甘味が口に広がった。

「ユーリが焼いたのかな。おいしい」

コーヒーを飲みながらクッキーを一枚食べた。
リラックスしている間に、ユーリが帰ってきた。

「ただいまー。やっぱりワカナさん、あの子猫探してたみたい」

「おかえり。さっき、このクッキー食べちゃったんだけど・・・・・・良かったの?」

そう心配そうにボクが言うとユーリはにっこりと笑って言った。

「うん、足りなくなったらまた焼くから。たくさん食べていいよ」

ユーリは上着を脱いだあと、テーブルの近くのイスに座ってどこからか持ってきた本を読み始めた。
ずっと、この時間が続けばいいと思うほどに静かで気持ちのいい時間だった。
20分くらい経っただろうか。ユーリが本を読み終えたとき。

「あっ、そういえば部屋、案内してなかったね」

「いいの?」

「うん、おいで」



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