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一杯のコーヒー  [作者:新藤 アキ]

■第1章−6

苛立ちながら道を歩いていると、ぽつり、と自分の頬につめたいものが当たった。
驚いていると、それはもうレンガ道を濡らしはじめていた。

「え、雨!?雨宿りできる所・・・・・・」

雨は時間が経つにつれてどんどんと量を増し、ついに本格的に降りだしてしまった。
ボクは近くにあったカフェのパラソルの下に隠れ、イスに座った。
しかしイスはもう濡れていて、座れなかった。

「傘も持ってないし行く所も無い・・・・・・。どうしよう」

不安が頭の中によぎっていった。この雨なら、あがるのも時間がかかる。
レンガ道を歩く人はいなく、余計に寂しくなる。
ふっ、と一人の名前が浮かぶ。

                    ユーリ・・・・・・

しかし来てくれるはずはない、ということを思うととても悲しくなった。
でも、不思議だった。

「シオン!ここにいたのね、よかった。濡れてるかと・・・・・・」

まるで、自分の気持ちがユーリにそのまま伝わったようだった。
ユーリが笑みをこぼし、ボクもそれにつられて笑った。

「ありがとう、来てくれたんだね。ボク、もう来ないかと・・・・・・」

「雨が降り出して、シオンのことを思い出したから」

「そっか。ありがとう」

「うん。じゃあ、行こう?傘、持ってきたから」

ユーリが差しているのはオレンジの傘。
ボクに差し出されたのはユーリが差している傘よりも少し大きめの、紺色の傘だった。

「じゃあ、帰ろう。シュウ姉ちゃんも、心配してるから。それに、シオンが着てる服。まだ、借りたままでしょ?」

「あ、そういえば。どっちみち、ユーリのお店に行くのは決まってたんだね」

二人で並んで歩く。傘は、ユーリと色違いだった。
傘はほとんど使われていないような新品だった。でも、少しだけ使ったようだった。

雨の中、ボクの歩くスニーカーの音とユーリのブーツの音、雨が降ってレンガ道に当たる音だけが、
ボクの耳に響いていた。



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