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甘ったれクリーチャー  [作者:直十]

■20

  辺り一帯を揺るがすほどの大爆発によって生まれた土煙を、イシュは風の魔法で一掃する。
  地面にはクレーターのような大穴があいていた。注げるだけの力は全て注いだ切り札だ。
  ゾルヴァにどれだけの傷を与えられたかはわからないが、少なからず決められたことに安堵する。
  警戒をしながら辺りを見回すが、ゾルヴァの姿はない。死体どころか血痕一つなかった。
  イシュは剣を握り直し、無造作に振り下ろす。すると振り下ろした切っ先でパチン、と術が破れた。
  地面に浮き上がったのは、黒い血だまりと、そこから点々と続く血痕。先日の血痕とは違い新しく、そして血の量が圧倒的に違う。
  その出血を考えたら眩暈がするほどに、そこに溜まった血は多い。
  どうやら決定打にはならなかったようだが、相当な深手を負わせることは出来たようだ。
  あと少し。あと少しで全てが終わる。これが終わったら熱い紅茶にケーキのフルコースに上等の蜂蜜。
  それに特大のアップルパイ。甘党のイシュにはこれとない至福だ。それにこの疲れを癒してくれる泡風呂にマッサージ。
  なんてことはない。すぐに終わらせて帰るのだ。今までの、魔族のいない平和な世界へ。誰も死なない平穏な日常へ。
  だからイシュは点々と続く血痕を追い、戦いに身を投じる。





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