甘ったれクリーチャー [作者:直十]
■5
頬に当たる風に、ゾルヴァは目を覚ました。ゆっくりと目を開け、まず感じた自分の血の匂いに顔をしかめる。
外からは鳥のさえずりが聞こえる。朝、らしい。
「おにーちゃん?」
ふいの声に驚いて顔を上げた。目の前にいたのは、少し驚いた顔をした五・六歳の少女。
「どうしてこんなところにいるの? まいごなの? おうちわかる?」
なんだが立場が逆のことを言われても、ゾルヴァは驚いて何も言えなかった。
ただ見開いた目で、少女を見つめるだけ。
「どうしたの? おうちわかんないの?」
舌足らずな口調でしゃべるその少女は、茶色の髪を二つに縛り、白いブラウスと青いスカートを着ていた。
その大きな黒い目は、ゾルヴァをじっと見つめている。
ふと少女はその視線を少し下に移す。その先にはゾルヴァの手。そこには昨日退魔銃を喰らった傷があった。
一晩眠ったおかげで傷はほとんど塞がっているが、昨日流した血は拭われずに手にこびりついている。
「これ、いたいいたいなの? いたいいたいだからかえれないの?」
「触っちゃ駄目だ」
傷口に手を伸ばす少女を制止する。少女の小さな手はびくりと震えて止まった。
「触ったら呪われるぞ」
そう言いながら口元に嘲りの笑みを浮かべる。自嘲の笑みだ。相手は人間なのだから、呪ってしまえばいいものを。
「……おにーちゃん、誰?」
「俺? 俺か。俺は……ゾルヴァ」
「ゾ、ル……?」
「あー、発音しにくいか。じゃあ魔神さんでいいよ」
「まじんさん?」
「そう。まじんさん」
何をやっているんだろう、と自分で思う。人間に名乗るなんてずいぶんと久しぶりだ。
しかも冥土の土産としてではなく、こんなふうに純粋な意味で名乗るなんて。
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