スピッツ歌詞研究室 オリジナル小説
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夜を駆ける [作者:すず]

■十一

その後、どうやってアパートに帰ったのか、よく覚えていない。

目覚まし時計のアラーム音で目が覚めた。カーテンの隙間からは、弱々しい光がこぼれている。
外はぼんやりと明るくなり、霞んだ薄い色の空には、冬の朝日が昇り始めていた。
夜にはあんなに輝いていた月は、広い空のどこかへ消えてしまった。
父さんと夜の街を一緒に歩いたことも、バスが空に消えていったことも、
本当にあったことなのか、夢を見ただけなのか、それすら曖昧だ。

しかし、頭の中では曖昧だけれど、わたしのからだと心のなかでは、あれは現実だったという確信がある。

きれいな半月も、大きな欅がざわめく音も、寝転んだ背中の冷たさも、ハチミツの飴の甘苦い味も、
父さんのいい匂いも、手のひらの感触も、柔らかい声も、五感で全てをはっきりと覚えているから。

そもそも、それが夢か現実かなんて、大切なのはそんな事じゃなかった。
夢であったとしても構わない。父さんはわたしをずっと見てくれていたんだ。

これからは、空で、母さんと仲良く暮らしていくんだね。

冬の夜に寂しさを感じることは、もうないだろう。
代わりに、父さんと歩いた夜のことを思い出すだろう。
月を見たら、父さんと母さんは元気にしているかな、と想いを馳せるだろう。

 

その時、玄関のチャイムが鳴った。
「おはよーう。」と言う、ようちゃんの声が聞こえる。
また、寒さで鼻と耳たぶを赤くしているのかな。
早く会いたくて、わたしは急いで起き上がり、玄関のドアノブに手を掛けた。

ようちゃんに、昨夜のできごとを話そう。
父さんがどんなひとだったか、教えてあげよう。
そして、今まで誰にも言わずにいた、わたしの心に潜んでいた寂しさのことを打ち明けよう。

 

これからは、このドアの向こうにいる大好きなひとと一緒に、わたしは生きていくんだ。

★おわり★



↓目次

【1】 → 【2】 → 【3】 → 【4】 → 【5】 → 【6】 → 【7】 → 【8】 → 【9】 → 【10】 → 【11】

 

「夜を駆ける」を聴くと、ドラマティックな歌詞とメロディのせいか、
夢と現実の境目にいるような、不思議な気分になります。
そんな「現実的ファンタジー」なものが書きたくて、このお話を作ってみました。
せっかくだから、歌に出てくるフレーズを所々に取り入れてみようと
色々考えるのが楽しかったです。
小説というものを書いたのはこれが初めてで、
まとまりのないお話になってしまったかもしれないですが、
とりあえず完成できて良かったかな、と。(レベルが低くてすみません…。)
ちょっとでも気に入ってくださった方がいれば嬉しいですが、
何よりも最後まで読んでくださった方がひとりでもいれば、それで充分!!だと思っています。
ありがとうございました★