スパイダー [作者:那音]
■1
この先は何が起きるかわからないし、もしかしたら死んでしまうかもしれない。
それでもいいのなら、それでも俺と一緒にいたいなら、連れて行ってあげてもいいよ。
スパイダー
現状に、満足していないわけじゃない。
日本という国は、他の国に比べればずっと平和だし幸せな国だ。
色々問題はあるけれど、大きな目で見ればそれらは全て些細なこと。
だから現状に満足していないというのなら、それはきっと罪になるんだろう。
でも。それでも。
何も起こらない、同じスケジュールを繰り返すだけの毎日は、正直辛い。
他の国ではたくさんの人が死に瀕していることはわかってる。そんな人たちに比べれば自分たちがどれだけ幸せ者なのかも、わかってる。
でも、退屈は……死に至る病だ。
それは手足に絡むヘドロのような。それは徐々に徐々に体を侵し内臓を壊し、やがて――息が出来なくなる。
助けてほしいと思った。
夢幻だとはわかってる。だけど映画のような小説のような漫画のような、
スリリングでワクワクドキドキするようなそんな退屈のない世界に行きたいと思った。もしくは――誰かに、連れて行ってもらいたかった。
この悪質でだけど日常的な病に、殺される前に。
誰か。
誰か、助けて。
「そんなに助けてほしいなら、俺が連れてってやろうか?」
振り返る。
そこには、胡散臭い風貌をした青年がいた。
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