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田舎の生活 [作者:瑛]

■4

少し時間が経ってから、俺はテレビをつけた。丁度天気予報がやっているチャンネルに変える。
すると、もう海岸の方では台風が上陸しているとの情報が流れ込んできた。

「うわー」

海の荒れぐあいを見て彼女が声をあげた。

「すごいことになってるよ」

今年、初めての台風上陸。彼女はじっとテレビを凝視していた。そしてふっと、その表情が陰る。
瞳に映し出されている映像が、チカチカと変わっていく中で、彼女はあまり瞬きをしなかった。
荒れる海。中継するリポーター。場面が変わり、陸上になる。ごおごおと唸る木々が、今実際、
外で起こっている状況を連想させた。

「…農家の人たち、大丈夫かな」

テレビから、比較的落ち着いた声で、「地崩れや、地滑りにお気をつけ下さい」との注意が流れる。
俺は箸を揃えて、机に置いた。

「…ごちそうさま」

彼女はハッとした様子で俺のほうを見た。にこりと笑って、彼女も「ごちそうさま」と続ける。

「漬物以外は、おいしかったですよ」

ふざけるように敬語で言ってみると、彼女は少し恥ずかしそうな、変な表情を浮かべた。

「つけものは、ちょっと味付け失敗したかなぁって…」
「ああ、やっぱりね」
「やっぱりって!」
「味が」
「…直ちゃんね、実際作ってないから分からないんだよ」

彼女は食器類を片付け始めた。俺も一緒になって、お椀などを重ねていく。

「あ、いいよ。私がやる。直ちゃんはお風呂はいっていいから」
「…主婦みたい」
「はい?」
「いや、何でもない…」

彼女がニコリと笑ったのでなにをいうのかと思えば、「今日だけ新婚さん」と楽しそうに言った。
俺は彼女の表情をうまく読み取る事ができなかったけど、たぶん心の中では楽しくなんかは
ないのだろう。
彼女は子供になりたかったのだ。たぶん、彼女の両親は昨日から帰ってきていない。もしかしたら、
それ以上。俺はどうすればいいのか、良く分からずにいる




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