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クレイジー [作者:星待ち人]


君の笑顔。
君のにおい。
君の声。
いつもそばに感じてる。
  ―――現実は見たくない。
真実なんてほしくない。
今僕は、幸せだから。

川沿いの細い道を、僕はゆっくりと自転車のペダルをこいで進んでいく。
僕の頬を掠めていくのは冬の冷たい風。
だけど寒さは感じない。
すぐ後ろには、君のぬくもりがあるから。

「あたしね、二人乗りって昔から憧れてたんだぁ」

顔は見えないけど、すごく嬉しそうな声。
きっといつもの、あの照れたみたいな笑顔なんだろうな。

「へぇ。で、相手は誰でも良かったわけ??」

「バカ、子どもみたい」

「まだ子どもだもーん」

「もう高校生でしょ〜」

それから僕らは小さく笑いあった。


また別の日は。

「今日さみぃなー」

僕は言いながらマフラーに顔をうずめ、学ランのポケットに冷え切った手を突っ込んだ。

「じゃぁ、うちにでも寄ってきますか!あったかいココア入れてあげる」

「いいね、行く行く!あ、ココアは砂糖たっぷりで」

「わかってるって。甘いの大好きだもんね?」

君はイタズラっぽく笑って、僕の頭をポンポンと撫でる。

「なんかガキ扱いだなぁ俺」

わざと拗ねたように言ってみたけど、僕の頬は自然に緩んでいた。


何気ないけど、幸せな時間。
つくりものの幸せ。
ニセモノの幸せ。
これは僕がつくりあげた空想の世界。
あの優しい時間が、僕の頭の中でしか流れていないなんて。
ほんとは存在しないものだなんて。
すべてがウソだなんて。
信じたくないよ。
この現実がつくりものだったらいいのに。
君の存在が現実だったなら……
辛くて、悲しくて、せつなくて、虚しくて、泣きたくなる。
だから逃げ込むんだ、君のいる場所に。
そして還りたくなくなるんだ、このカラッポの空虚な世界に。
わかってる、きっと僕は壊れてる…狂いかけてる。


恭くん―――…
小さな、不安そうな声で君が僕の名を呼んだ。

「恭くん…あたしね、今日イヤな夢見た。すごくすごく怖い夢」

「どんな?」

「恭くんがバイバイって手振って、この世界から消えちゃうの」

僕はうつむく君を見て、小さく微笑んだ。

「そんな夢見たの?俺はここにいるよ。離れたりなんか、絶対しないよ。約束するから」

君は無邪気に屈託なく笑って、こくりとうなずいた。


僕が君の前からいなくなるはずないだろ?
離れたくないよ、一瞬だって。
君のとなりにいるよ。
ずっと、ずっと―――――永遠に。