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不思議なお兄さん [作者:ユウコ]

■5/5

僕の顔はお兄さんから見ればこの世の終わりのような顔をしていたのだろう。
お兄さんは僕の頭にそっと手を置き、ぽんぽんと軽く叩き、やや乱暴に撫でた。
この行動はショックを受けている僕を慰めようとしているように感じた。

「その表情じゃ同じ事の繰り返しを送ってたらしいな。今、意識不明でちょうど一年だ。だからこの夏を十二回繰り返していた事になるな」

確かにお兄さんの言う通りだ・・・・・・。僕は十歳のままで去年の記憶の糸なんかなかった。
春、秋、冬を体験していない。この十歳の夏休みを繰り返していただけだったんた。何で今までこんな事実に気がつかなかったんだろう・・・・・・?

「何で今までこんな事実に気がつかなかった知りたいだろ?」

僕は図星だったが、その言葉にゆっくりうなずいた。お兄さんは再びしゃがみ軽く僕の額を叩くと。

「お前は夏休みが終わるたび、空っぽになるんだよ。つまり夏休みの間の記憶が消えるって事だ。そしてまたその繰り返しを行っていたんだ」

「でも、去年の事を思い出さないのは?」

「お前にとってここは居心地がいいから思い出さなくてもよかったんだよ。
もうそろそろ夏休みを終わりにしないか?史成さん。最愛の奥さんがお前を待っているぜ」

僕は結婚していた。変な気分になった。
この感情は僕が子供の心のままだから?
僕は頭を殴られたように痛かった。ショックだった。
お兄さんはいきおいよく立ち上がると僕を強く抱きしめた。お兄さんの胸はパパより大きくて暖かかった。
そんなお兄さんがもう死んでいるなんて僕はまだ信じられなかった。
かすかにグレープフルーツの香りがした。そういえばお兄さんはグレープフルーツが大好きでよく食べていたっけ・・・・・・。

「俺の顔はこれといった特徴がないから変装したら逃げるに楽だったけど、お前は俺の刺青だけを頼りに必死で探していた。
刺青を入れたのも俺にとっちゃ失敗だな。特に鳳凰なんか入れちゃったしな」

お兄さんは片目を細めて舌を出した。

「僕を・・・・・・どうするの?」

僕はお兄さんが怖くてたまらなくなってきた。僕はこれからどうなるの?お兄さんは僕に何をしようとしているの?

「家族の元へ返す。それが今の俺にとって罪の償いさ。あの頃は何も考えていない馬鹿な若造だった・・・・・・。
俺は今、後悔しているよ。死んでもこの罪は償いきれない、俺が今からする事は俺にとって自己満足で完全に償うとは言えない・・。
もし、お前が死んでいたらずっと悔やんでるだろうな、生きてて良かった、と言うより今からお前にする事は三十九歳の浅生 史成と俺にとって
救われる事だ。それに生きていた時、お前の説教、いや警告を素直に聞いておくべきだったと思う。
あんたは普段から俺に気をかけていて、よく俺に他愛のない世間話をしたりとか、色んな場所に連れていってくれたことがあった。
今、思い返すとあんたは結構いい人間だったぜ」

その言葉を言い終えると、お兄さんの周りに突然光が差し込んできた。
僕は目が眩み目を開けることが出来なかった。僕は怖くてお兄さんにしがみついていた。

「お兄さん!何が起きているの?」

お兄さんは何も答えてくれなかった。すると、僕の身体は大きく宙を舞った。僕はお兄さんから手を離してしまった。
僕は叫んだ。でも、お兄さんはきっと笑っていたと思う。心も身体も子供の僕の事を。
僕の耳元にお兄さんの言葉が聞こえてきた。

「俺は史成君にとっていいお兄さんだったかもしれないけど、俺は三十九歳の浅生 史成が俺にとっていいお兄さんだったぜ。だから・・・・・・」

僕はお兄さんの言葉を聞き終える前に意識を失った。ごく自然と・・・・・・。

お兄さんは最初から最後まで不思議だったよ。
だって、僕にしか見えないのに、色んな事が出来るし、人と話せるんだもん。
それは十歳の浅生 史成の世界にいたからだと思う、十歳の浅生 史成は頭も良くないし結構、単純だもん。
そして、僕が同じ事を繰り返している事に気付かせてくれた。
僕はもう逃げないよ。たとえ記憶を失っていたとしても。
僕は心に決めた。
三十九歳の浅生 史成に戻ったら、お兄さんにお礼を言おう。
戻らせてくれてありがとうと。そして十歳の浅生 史成にとって良きお兄さんだったことを。

■おわり m(_ _)m


【作者:ユウコさんからのメッセージ】
この小説は涙がキラリ☆から膨らんでいったものです。
実際完成するとかなり掛け離れてしまってますが、涙がキラリ☆から受ける切なさを残せたと思います♪

↓目次

【1】 → 【2】 → 【3】 → 【4】 → 【5】