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不思議なお兄さん [作者:ユウコ]

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気が付いたら辺りはオレンジ色に染まっていた。僕は空を見上げた。夕日は大きくてとても綺麗だった。お兄さんは僕の頭を撫でた。

「よく眠っていたね」

僕は照れ笑いをした。
すると、お兄さんの表情は真剣になった。その瞬間、僕の背筋に冷たいものが駆けていくものを感じた。

「そろそろお盆が過ぎるな、君はもう帰らなければいけない」

僕はお兄さんの意味不明な言葉に不安を感じ表情を変えた。
言っている意味が分からない!

「やっぱり覚えていないのか、僕のことを」

お兄さんは僕の肩を力強く握った。僕は思わず、痛い!と叫んだ。
お兄さんはそんな僕に構わず肩を握っていた。

「心と記憶も子供のままじゃ思い出すわけないか」

お兄さんは僕の肩をはなすと、僕と同じ目線になるようにしゃがみこんだ。
その時のお兄さんはいつものお兄さんとは違う雰囲気を出していた。僕はお兄さんの変貌に驚き、言葉を出すことすら出来なかった。
お兄さんは僕をバカにしたように見下すと鼻でと笑った、そして突然大声で笑い転げ出した。

「やっぱ、覚えてないな。お前さ、血眼になって俺の事を探してたのにさー」

「探してた?」

僕はお兄さんの突然の変貌に身動きが取れなくなっていた。お兄さん、何で笑うの・・・・・・?

「俺は去年死んだの。お前は意識不明の重態。俺が道連れにしてやった、というよりしそこなったんだよ。
俺は『犯罪者』で、お前は『刑事』だったんだよ。
俺は傷害事件と殺人事件を起こして逃走中の所をお前に見つかって、俺はお前を撃ったのさ、そしたらお前は俺の胸に弾をぶち抜いた。
まあ正当防衛ってやつだな、だが俺も残っていた気力であんたを撃ってやったのさ」

僕が刑事でお兄さんが犯罪者?そんなことがあるの?僕はまだ十年しか生きていない!

「それで、俺はお前を現世に戻すために来た。お盆が過ぎると来年を待たなきゃいけねえ、浅生 史成さんよ。
現世で生きてきた三九年を思い出さないか?」

三十九年・・・・・・僕はそれだけ生きていた?でも僕はここにいる!ここに十歳の僕がいる!

「そんな・・・・・・僕はここにいるんだ!僕は三十九歳でお兄さんに殺されかけた浅生 史成なんかじゃない!」

僕はお兄さんをキッと睨んで叫んだ。
風が強く吹き荒れるなか、お兄さんの髪、服は全然風になびいていなかった。

「たしかにそうだよ。あんたはここにいる。でもお前は三十九歳の浅生 史成と一緒だ!」

お兄さんも負けずに強く言った。そして続けた。

「そうだ、今から昔の事、思い出さないか?例えば、夏休みになる前のこと」

お兄さんはすくっと立ち上がり、僕を見下ろした。
僕はそんなバカな事があるものかと、今までの思い出を探った。 だけど・・・・・・。
なにもなかった。何も思い出せなかった。まるで真っ白だった。

↓目次

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