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不思議なお兄さん [作者:ユウコ]

■ 3/5

僕が子供のままだったら・・・・・・。
僕はお兄さんと毎日会っては遊んだ。
キャッチボールをしたり、フリスビーを投げたり、夏祭りに連れていってもらったんだ。
お兄さんはキャッチボールが得意で、時々ふざけて僕に速い球を投げてきたりした。
僕はそのボールを無理に捕った時、腕にずっしりと重みがかかり、とても痛かった。
でも、捕れた時は素直に嬉しかったよ。
そして、キャッチボールをした後は必ず冷たいアイスキャンデーを買ってくれたんだ。
お兄さんはレモン味、僕はイチゴ味をよく食べていたっけ。
たまに緩やかな坂のある川原へ行って地面に転がって昼寝をしたり、空に映える真っ赤な夕日を眺めたりもした。
僕はお兄さんと遊んでいる時が本当に楽しくてたまらなかった。
このまま時間が止まればいいと思っていた。
お盆が近づいてきた時、近くの神社で夏祭りがあった。お兄さんは僕を誘って連れていってくれた。
ヨーヨー釣りをしたり金魚つりをしたりした。お兄さんは金魚つりが得意で金魚を十匹ぐらい釣っちゃった。
お兄さんは屋台のおじさんに金魚を2匹もらい、それを僕にくれた。僕はその金魚を大切に育てるよ。
とお兄さんに言ったら、お兄さんにえさをやり過ぎちゃ駄目だよ。と笑顔で釘をさされた。
僕はお兄さんに綿菓子を買ってもらい、それを食べていた時だった。

「もうすぐ、夏休みが終わるね。史成君は宿題終わった?」

お兄さんは僕の手を優しく握った。

僕は首を横に振った。お兄さんは一定の流れで流れている人ごみのなかを自分のペースを保って歩いていた。
お兄さんの顔は優しかったがどこか哀しい表情も見られた。僕はその時、何となく聞く事が出来なかった。

「でも、君は宿題が終わらなくても、夏休みは永遠にあるからね」

夏休みが永遠にある?僕はお兄さんの言葉にまた戸惑った。

「やっぱり分からないか。今は」

お兄さんは人ごみのなかで足を止めた。僕は人ごみに押されながらなんとか止まった。
お兄さんは人ごみの中で孤立しているようだった。
たくさん人が歩いている中でお兄さんは誰にも流されず、ここにとまっている・・・・・・。
僕はお兄さんの不思議な雰囲気に惹かれっぱなしだ。
お兄さんは不思議だな、僕にしか見えないのに金魚つりも出来たし、料理もできる。
お兄さんは本当に不思議な人だな。

「そのうち分かるの?でも夏休みは永遠にあるわけないじゃん。季節が変わるのに夏がずっとあったら怖いよ」

お兄さんの顔から笑顔が消えた。
僕はその時、何かを思い出しそうな感覚になった。
今まで忘れていたことを急に思い出すような・・・・・・。

「そういう意味じゃなくて。君自身の事だよ。君にとってはここにいる限り永遠の夏休みさ」

お兄さんはこれ以上何も喋ってくれなかった。僕とお兄さんは黙ったまま、手をつなぎ静かな道を歩き、別れた。
ある日、僕はお兄さんからもらった金魚に問い掛けてみた。

「お兄さんは言っている事が不思議だね」

金魚は金魚蜂の中で口をパクパクさせているだけで何も喋ってくれなかった。金魚じゃ駄目か。
お盆の真っ最中、僕の友達は皆、帰省というやつで田舎に行っている、僕には田舎がないからちょっと羨ましい。
僕はお兄さんに誘われて一緒に川原で夕日を眺めていた。
緩やかな川の流れの音に僕はうとうとした。

↓目次

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