小さな街の中で [作者:たぬき]
■第9話 [2/2]
父親の存在。
聞かれたって、困る。
思い出なんて、ほとんど無い。
母さんも話さないから、昔どんな人だったとか、知らない。
自分も質問しない。
自宅に帰った後、真生は絨毯の上にゴロンと横になった。
ぼんやり考え事をしていた。
無性に、聞きたくなったコト。
小さい頃、聞きたくなかったこと。
うっすらと知っている事の、もっと深い部分。
記憶の中にかすかに残る光景。
『ピーンポーン』
真生のマイナスな思考回路を遮って、チャイムが鳴った。
のそのそと立ち上がり、玄関へ向かう。
「はい?」
不機嫌そうにドアを開けて、待っていたのは担任、優一だった。
「うっ。そ、そんなに睨むなよ」
優一は心底怯えている。
「あ、あのさ、お母さんいるか?」
「まだ帰ってませんけど。なんか用ですか?」
「いや、まぁ、ね」
優一は歯切れの悪い返事を返す。
「中で待ちますか?」
睨みつけたまま、睨みつけている相手に、真生はなんとも優しい言葉をかけた。
↓目次
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